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食べ物は人間の知恵によって換骨奪胎を繰り返す

「食の文化」
「食の社会学」加藤秀俊より

ハンブルグで始まったハンバーガー 

人間の知恵というのはまことにりっぱなもんでありまして、よその国からある種の食品を手に入れても、それを変えていく能力をもっております。食品による世界の文化交流史は一冊の本にまとめることができるほど、興味の尽きない話題でありまして、いくつかの例の中から申し上げますと、たとえば私が非常に卓抜だと思うのはハンバーガーであります。ハンバーガーの起源については、研究書は非常に少ないのですけれども、その起源はこういうことになっております。
 ご存知のように十三世紀にモンゴル帝国が非常な拡大を示して、一方で東のほうには日本のすぐそばの朝鮮半島の突端まで来まして、元寇の役が始まるわけです、そこまでジンギスカンの軍隊が出てくる。西のほうはドナウ川までまいります。そこで、中央アジア、蒙古に根拠を置くモンゴル帝国では、肉食が主でありまして、羊や牛の肉を生で食べる食べ方を持っていた、今日でも、好きな方はタルタルステーキというのを召し上がります。タルタルステーキというのは、生のひき肉にたまねぎを混ぜて、それに卵を落としただけのもので、いっさい加工はいたしません。
 タルタルというのはタタール人ということです。これは日本語ですと韃靼人になるわけです。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」の中に「韃靼人の踊り」とのがあります。あの韃靼です。タルタルというのはそういうことです。タルタルステーキ、タルタルソースというのは韃靼人、つまり蒙古から来た人たちが持ってきたのです。
 ところが、そのころバルチック海で商業を営んでいたドイツの船乗りたちが、たまたまタタール人と会いまして、そこで生の肉をこまかく刻んで―ひき肉の機械は当時ありませんからきっと切り刻んだのでしょう―食べる習慣を持って帰ってきた。その母港がハンブルグであります。ハンブルグに持ってきて、船乗りは、海外新知識をさっそく応用して牛肉をチョンチョンと刻んで食べる。しかし、普通の市民は生の肉を食べる気がしなかったので、ひき肉を固めて焼くという方法をつくった。それがハンバーガーステーキという言葉の起こりであります。
 要するにハンブルグで始まったからハンバーガーステーキです。私は、たいへん好奇心があったので、ハンブルグに行った時に、ここではなんと呼ぶかと聞いたら、ドイッチェステーキと呼ぶのだと教えられましたけれども、これは明らかbにハンブルグというと指名と密着しているのです。


ハンバーガースタンドの始まりは 

このハンバーグステーキを十八世紀にアメリカに移民したドイツ人が持っていきます。そこにサンドイッチ伯爵がつくったサンドイッチというものがある。これは先ほど申し上げたイギリス人の食生活と非常に密接に連関しているわけでありまして、トランプ遊びこそ人生の生きがいで、食べるなどということは末梢的なことにすぎない。しかし、食べなければ死んでしまう。おなかがすく。だから片手で食べながらトランプはできないかというので、サンドイッチ伯爵が発明したのがサンドイッチです。それの故事にならって、ハンバーガーステーキをパンの間にはさんでみたらどうかというのでやり始めたのが、十八世紀の終わり頃にマサチューセッツ州ですでに記録が出ております。
 その後で、セントルイスで博覧会が開かれました。博覧会というのは日本でも万博がありましたけれども、やたらに人がたくさん出るところなので、満足に食堂でいすに座って食事をするなんでことはできない。そこで、ハンバーガースタンドが始まるわけです。それで、今日われわれが知っているようなハンバーガーがそこで初めて定着する。これは十九世紀の終わりです。
 

全世界に普及したマクドナルドハンバーガー

 このハンバーガーは、今度は医者のほうで、これは健康食によろしいということになる。それはそうかもしれません。でっかいステーキよりもひき肉になっていますからこなれがいいです。そこでサルスベリーという医者が胃の弱い人に処方したのです。
 でsから、ハンバーガーは別名サルスベリーステーキといいます。ハンバーガーというと何となく軽薄で、サルスベリーステーキというとやたらに高級のように聞こえます。
 そういうのに目をつけた人の一人にマクドナルドという人がいた。マクドナルドという人は1951年現在の素性を言いますと、カリフォルニアでソーダファウンテンをやっていた人物です。ところがその時代は自動車時代と並行しておりまして、ちょいとよって、コカコーラ、その他ソーダ類を飲みながら、何かないかといって、ハンバーガーがやたらに売れるということに目をつけて、そこからハンバーガーを企業化しようということを考え付く。そして、今日は全世界にマクドナルトハンバーガーが生まれたのです。

としますと、韃靼人あるいはモンゴル帝国が置き土産にしたものを、ハンブルグの船乗りがドイツにもって帰って、両側を焦がしてそえrを食べる。それを今度アメリカに移民した人がパンの間にはさむ。はさんだものを博覧会で売る。自動車時代が来て需要が多いというので、マクドナルトという人がそれを事業化するというふうに一ヶ所で始まった食生活の習慣あるいは食べ物は、文化が変わっていくにしたがって、その中で姿を変えてまいります。文化の知恵というのはそういうものだと私は思います。

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