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2012年5月25日 (金)

ミネソタのオオカミ⑩~オオカミの害とシカの害と

オオカミを復活させるというアイデアは、必ず「オオカミのリスク」をはっきりしろと迫られます。

ところが、今現に増え続けているシカの害(リスク)は、農業被害や森林の被害などのような、人の体、健康、命に直接かかわる影響が出ていないため、その深刻さがまだ感じられないかもしれません。

シカの被害は、数え上げれればキリがないというほど広く、様々な分野にまたがるようになってきました。

 

・農林業被害:山村の畑作だけでなく、木材用人工林、林産物(しいたけなど)、水田、果樹も食害が見られる


・森林被害:高山植物の消滅、天然林の樹皮剥ぎ


・森林被害に付随する被害:下層植生がなくなり、裸地化、土壌流出、土砂崩れ、河川への流入


・漁業への影響:川の濁り、土砂堆積による河川漁業への影響、沿岸漁業への影響


・交通事故、鉄道事故


                                    
等々、日本全国で見られるようになりました。

さらにアメリカでは、以下のような病気まで、シカに関わりがあるとされています。

「捕食者なき世界」 ウィリアム・ソウルゼンバーグ(文芸春秋)

Photo
                                 

第六章 バンビの復讐

最初に蔓延した町の名前(コネチカット州オールドライム)から名づけられたライム病は、1975年に初めて診断されて以来、コネチカット州から森林の多い東部全体に広がり、やがて五大湖地域から西海岸の森でも感染する人が出てきた。合衆国における患者数は年間1万五千人から二万人に上るが、実際はこの10倍が感染していると見る人もいる。合衆国で目だって急増している感染症の一つになっている。

 

 ライム病は、梅毒疹に関係のあるスピロヘータ菌、ライム病ボレリアに感染すると発症し、治療を怠ると、ときには複視、神経痛、焼けるような皮膚の痛みが引き起こされる。慢性疲労症候群やリウマチ性関節炎、多発性硬化症に誤診されることもある。症状がはっきりしないので、誤診されたり、適切な治療がされないこともよくあった。末期には髄膜炎、顔面マヒ、一時的な幻覚、不安発作が起きる。長引くと車いす生活を送ることになったり、自殺を考えるほどの痛みに苦しめられたりする。このライム病が蔓延する場所には必ずシカがいる。

 

 最初の流行から30年が経過した今、ライム病と社会の敵とのつながりに新たなひねりが加わった。かつては単純に、シカが多くなるとライム病が流行すると考えられていたが、そこにもうひとつの要素が加わったのだ。一頭のシカは数千匹ものクロアシダニの成虫を体に忍ばせており、そのダニは確かにライム病を媒介する。しかしボレリア菌をヒトの血流に流し込むのは、成虫ではなく、小さな幼虫のほうだとわかった。そして、その危険な幼虫は通常シマリスやシロアシネズミの血を吸ってボレリア菌を獲得する、どちらも広く森の地面近くに暮らすかわいい小動物である。

 

ニューヨーク州にある生態系研究所のリチャード・オストフェルドは、こう推測する―植民地時代以前は、シカもダニも現代よりもはるかに少なかった。20世紀半ば以降のどこかの時点で、シカの個体数が閾値を超え、それがきっかけとなってダニの数が異常にふくれあがった。ネズミがライム病の病原菌の宿主だとしても、アメリカから捕食動物が消え、その結果、シカが増えたことによって、病気を媒介するダニの大群がネズミの通り道に送り込まれ、ひいてはアメリカ人のズボンのすそに食らいつくようになったのだ。

 

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この文章にある例は、コネチカット州のものですが、ミネソタ州健康局(Minnesota Departmento of Health)のHPには、ダニ媒介疾病のハイリスク地域の地図が掲載されています。

Img024


                              

ライム病パンフレット
                                 

http://www.health.state.mn.us/divs/idepc/diseases/lyme/lyme3fold.pdf


この地図にあるように、ライム病ハイリスクエリアは、シカの高密度地域です。





                                                          






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