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2012年9月

2012年9月29日 (土)

哺乳類学会で何が語られた~ニホンジカの特定鳥獣保護管理計画の現状と課題

哺乳類学会に参加して<ミソサザイからの報告>

オオカミ復活による生態系修復という提案に対して、「他に有効な方法があるのであれば、オオカミの再導入のような不確実な方法は検討にも値しない」のような反対意見がありますが、その反対論の念頭にあるのは、「特定鳥獣保護管理計画」を初めとする、「ヒトの手による頭数管理」にあります。

その特定鳥獣保護管理計画の現在の状況を確認できる機会でした。

結論を先に言えば

特定鳥獣保護管理計画の立案・実施は迷走している】
            

ということです。

 

自由集会 ニホンジカの特定鳥獣保護管理計画の現状と課題

                        

 この自由集会は、哺乳類学会のシカ保護管理検討作業部会(特にシカについて専門的にさまざまな検討や集会の企画、調査などを行っている研究者たちの集まり)が、シカの特定鳥獣保護管理計画(以下、特定計画と略。特定計画の簡単な解説はこちら

http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=1909

を策定している36都道府県の行政担当者にアンケート形式のききとりを行い、その結果の報告と、今後の方向性や抱えている問題点・課題を共有する、というのが目的の集会だった。



 その概要のうち、印象に残った発表および発言は以下の通り。ただし、参加者は互いに顔見知りらしく、内輪話のように始まることが多かったので、発言者が不明のまま発言の背景がわからないことも多くあり、省略しているものもあるのが残念。【 】内は筆者の感想。



 

●特定計画における管理目標

目標はシカの個体数および分布拡大の抑制に重点が置かれている。特に「分布拡大の抑制」を掲げる自治体が増えた様子。

特定計画は「対象種(=シカ)の存続」と「人との軋轢を回避する」という、相反する目的を達成することが目的で策定されるものだが、シカ対策としてよく報道などで目にするジビエなどの「有効利用」を目標に掲げているのは2自治体のみ。

●数値目標

 この計画の目標として掲げられる数値というのは「捕獲数」だったり「生息密度」だったり「シカによる被害量」だったり、地域の実情に合わせてさまざま、まちまちで統一されていない。中には「管理施策」そのものが目標、という自治体もある。

数値目標が全国一律でないことは「地域の実情に合わせるという特定計画の趣旨」に合致しており、これは「のぞましい状況」なのだとのこと。(つまりこの特定計画では、過去の「地方」のイメージであるところの「横並び・前例主義・省力主義・中央だのみ」は通用しない。地方にとっては、マンパワー的にも財政的にも、かなり厳しい制度。)

この点で「シカの有効利用」に関する自由集会に参加されたらしい方が、その会場では「自治体の予算が切れたら頭数管理は終わり」との発言があったとつぶやいているのが聞こえた。

●目標の達成状況

 その、地方オリジナルの目標を「達成した」と答えた自治体 39.3%。「8割以上達成」が21.4% 「8割未満の達成状況」が14.3% のこりは「その他」

 地域の実情に合わせた目標ですら、達成できたのは4割

推定頭数に対しての、管理捕獲目標頭数の割合はバラバラで、推定頭数の何割を捕獲すればいいか、という理論値も定かでなく、目標自体も各地方により捕獲数、被害額、生息密度とバラバラ。

さらに問題なのは、たとえば目標とした「捕獲数」は達成したはずなのに生息数や被害額が減らないなど、この特定計画がまだまだ実効性のあるものになっていないということ。

 

●狩猟規制の緩和

 狩猟圧を高めるために既存の規制を緩和しているのは25の自治体。猟期の延長、捕獲数の上限の緩和(1日あたりの捕獲数を無制限にしている地域もある)ワナ猟の増加に伴いその方法の規制緩和、鳥獣保護区でもシカは例外扱いにする・・等など、できるところからの緩和を進めているが、狩猟者数減少の影響の方が大きいためこの規制緩和が狩猟圧の増加に寄与していない自治体もある(長野県など)

 

●個体群モニタリングと将来予測にもとづく捕獲計画の現状と課題

 許可捕獲に関して、現場から上がってくる情報の中で捕獲個体の性別が「不明」となっている割合が増加している、との報告あり。

会場からも質疑応答で「幼獣の割合が増加したせいでは?(角の有無などパッと見で雌雄が判別しづらい)」との質問があったが、そうではなくて、現場からモニタリングのデータを扱う研究者のところにまで情報が届く途中で不備のためうやむやになってしまう、という場合の方が多いとのこと。

目標達成のためのごまかしとまでは言えないしそう考えたくはないけれど、というような空気が一瞬流れる

これは、科学的な根拠にもとづく施策である特定計画の根底をゆるがしかねないことでは、と思うが、その重要性を研究者が現場に伝えきれていないのでは、という課題として共有された様子。

 

 また、将来予測そのものをしない自治体が増えている。目標の見直し時期についても、毎年見直しをする自治体も多い一方で「5年に1度」だったり「目標の見直し」については全くふれていない自治体もあり、将来予測をあきらめているのでは、との意見が聞かれる。

 モニタリングで調査する項目(データとしてそろえておく項目)が減少しており、これは各自治体の財政状況が影響しているのでは、とのこと。将来を予測することは「あきらめたのか?」将来予測や必要なモニタリングの減少は、その重要性に対する意識が現場で低下しているのだと思う。それは人員、予算不足が影響しているのではないか。

大阪のアンケートからは、「事業仕分けで予算カットと人員削減でできない」と怒りのコメントが返ってきたと報告され、会場から失笑。

とにかく目の前のものを減らすのが急務だから、少ない予算は捕獲の方に回して・・・という行政の現場の苦労する様子が伝わってくるようだ

 モニタリングの手法についても、個体数推定を行う自治体もあれば、数の推定は行わず増減といった推移だけを見るとしている自治体もある。

かつて、オオカミ導入を議論しようと呼びかけた豊後大野市に対し「市はシカの個体数推定もしてないではないか、科学的な検討をする前に安易にオオカミ論にとびついた」と揶揄した人がいたが、それはシカ行政の実情を知らない意見だった、ということになる。大分県はそれ以前に特定鳥獣保護官理計画を立てて実施しているし、豊後大野市はその後独自に調査を行った。】

しかし、モニタリングに用いられているシュミレーションや調査手法の精度に疑問があること、中長期予測にそぐわないことが明らかになったシュミレーションに代わる確定的なものがまだ定まらないこと、何より、シカの分布拡大の勢いに調査法の開発が追いつかないということが指摘された。

●生物多様性保全に関して

 特定計画では農林業被害対策に注目が集まっていて、生物多様性保全には充分ではない、というのが結論だった。

多すぎるシカが生態系に与える影響について、認識していると分かる特定計画が増えたものの、それを目標にもりこんだ自治体は少ない。

多様性に対する問題を認識し、目標にかかげ、柵などを設置しているのが6目標には掲げていないが認識がありそのための防鹿柵を設置しているのが2、と全国で8自治体のみ。

 

「科学的根拠にもとづく順応的管理」が特定計画の最大の「売り」のはずが、「PDCAサイクルが成立していない非科学的で計画性のない状態」になってしまっている実情が報告された。

この状況に対し、研究者はどういう態度で臨めばよいのか、ということで、会場よりコメント

森林総研の小泉氏一般に、科学の成果とその効果がみえてくるまでに時間的ギャップがある。周囲の期待は一気に高まるだけに、すぐに成果がでないことへの苛立ち、攻撃があり、その「アクマの時間」を耐えることができれば成果にいたることができる。研究の展開のノウハウを提示すること。個体群生態学パラメータを設定し予測を行うの分野だけでなく、哺乳類学の他分野(動物社会学や生理学的な研究分野)の人も積極的に参画して欲しい。

兵庫県の横山氏現場は行政職員が担当している。研究者と現場担当者が科学的なキャッチボールができているのか。研究者が現場に対してモニタリングの重要性を周知できているのか。個体数を押さえ込むことが最優先になっている。生態系保全の意識、重要性の周知はもっと高めなければ。

静岡か長野の行政関係者?聞き取れずそういう意味では、環境省が旗をふっていて予算もある知床の密度操作実験には期待をよせている。ここで成功例が提示できればそれを全国にあてはめることができる。他の自治体では、予算措置が1年遅れればその分対応が遅れ、その1年分シカが増えてしまい、さらに予算が必要になる、という悪循環になっている。

 

●全体の印象

 

ヒトが、研究者という頭脳と、地方という現場の手足で、必死に汗をかいて国を挙げて頑張っているけれども、野生動物であるシカはその半歩先をすり抜けて先を行っている感じ。

 

 ここから分かるのは、もし特定計画でシカ保護管理がうまくいけばオオカミはいらない、という議論の方向性がまとはずれだということ。このままではヒトによるシカの頭数管理という目標は、近いうちにグダグダになっていくといいうことが、かなりの確度で予想できる。

特定計画の行く末の結論が出るのを待って次にオオカミ、では日本の自然はめちゃめちゃになる

これまでの自然行政の実情を知っている人にとっては、従来なんの手がかりもなく闇雲に進めてきた鳥獣管理に、PDCAサイクルを導入した特定計画は画期的であったし、その方向はもちろん堅持しなければならないと思う。

人がシカとの共存をめざし、同じ国土の中で農林業を続けていく以上、シカ管理は必要であり、シカの根絶を目指さないことも確かなので、特定計画は継続して行うべきだが、、、、

しかし、この計画があるから生態系の修復のためであってもオオカミはまったく考慮にも値せず、不要、というのはおかしいし、この特定計画に中心的に携わっている人が、自分たちの手に負えないという思い込みによって、オオカミの議論さえ忌避するというのは極めて恣意的な論理だということがよく分かる集会だった。

 

生態系全体を見渡せる学際的な視点をもった新しい研究者がもっともっと必要だし、そこに価値を見い出し、雇用を確保するようなアイディアが官民からでてこないものか。

 

他にポスター発表による研究成果について

ニホンジカによる上位捕食者への影響

ニホンジカの高密度化がネズミ類とその捕食者に与える影響

シカの採食圧によって何が変わるか。

まずネズミの分布が変わる。シカの密度が高まるとネズミの密度は低下する。

捕食者は、ネズミを捕獲する能力と食料に占めるネズミの割合によって、影響の受け方が違う。たとえばフクロウのように、ネズミを主に食べている種は影響が大きく、数を減らしているし、キツネのように必ずしもネズミでなくてもいい動物はそれほど影響を受けない。シカの密度が高くなると一部の昆虫やミミズが増えるため、必ずしもネズミの数が減ったからといってキツネの密度は影響を受けない。

逆にタヌキやアナグマはあまりネズミを捕らえて食べることはしない。むしろ、虫などの割合が高く、ネズミ捕食の能力高くない。当該調査地では、シカの影響により恩恵を受けてタヌキはむしろ増えた。

ここから推測するに、シカの増加によって、フクロウ類は数を減らすが、オオカミの復活によって、ネズミが増えることにより、回復する可能性がある。イエローストーンの観察結果からも、このカスケードは推測できる。

                                                            
                                                

<今回の哺乳類学会での発表内容に関しては、一人の参加によるものを整理したので、不正確な部分があるかもしれないため、参加者の方で異論があればぜひご指摘ください>



オオカミ復活への企業の支援~フォルクスワーゲン社「ウェルカムウルフ・プロジェクト」

オオカミ復活への企業の支援

ドイツでは、オオカミは150年前に絶滅していました。隣のポーランドなどにはまだ生き残って繁殖しています。その国境を越えて、2000前後に一組のオオカミが移動してきたのです。


既にEUではベルン協定の対象になったオオカミを各国が保護動物に指定し、保護活動が盛んに行われ始めていました。そこでドイツでは、NABUがフォルクスワーゲン社の支援の下「ウェルカムウルフプロジェクトを開始し、オオカミの保護活動を支援しています


フォルクスワーゲン社の活動紹介映像にメインで取り上げられているのがオオカミです。






そのドイツでは、小型のノロジカは年間100万頭、ハンターに捕獲されていす。他にも年間イノシシ50万頭、アカシカ6万頭、シャモア4000頭捕獲。それでも局所的には森林崩壊が起き、斜面の崩壊も多発しているそうです。公的に収入を保障されている狩猟者やプロの狩猟者には、森林を守るという意識付けがされています。その一方で復活したオオカミを保護し、生息地を拡大していくことを支援する企業の活動も「生物多様性保全」を目的に行われています。

その両者が森林、生物多様性保全のために必要なのだと思います。

http://blogs.yahoo.co.jp/pondwolf39/33698935.html





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2012年9月16日 (日)

ウィスコンシン州のオオカミとシカの分布

アメリカ中西部3州、ミネソタ、ウィスコンシン、ミシガンにはオオカミが約4000頭生息しています。

http://dnr.wi.gov/topic/WildlifeHabitat/wolf/index.html


http://dnr.wi.gov/topic/WildlifeHabitat/wolf/documents/HistoryofWolves_2011.pdf



保護がはじまった1970年代に残っていたミネソタのオオカミが増えて、ウィスコンシン、ミシガン(アッパー半島)に拡大したと推測されています。

ミネソタではオオカミの頭数が多すぎて、それぞれのテリトリーを地図上に示すことができるほどには把握されていないため、生息エリアでしか表現されていませんが、ウィスコンシン州では、州境を越えて侵入して増え始めた初期のころから、テリトリーが確認されていますので、その増え方もイエローストーンと同様に追跡されています。

また、この地域は、狩猟のための情報提供としてシカの分布、生息密度も公表されていますので、オオカミの分布とシカの分布、生息密度を重ねてみることが可能です。

可能なら、全ての地図をスライドのように重ねてみたいところですが、テクニックがないので、縦に並べてみました。FBではアルバムに置きましたので、それらしく見られます。

地図は、オオカミの分布図、BUCK(オスジカ)、DEERの秋季、冬季生息密度です。

重ねてみると、当然ですがオオカミ生息地はシカの密度が低く、周縁は高くなっています。
ただし、この地域では狩猟も盛んですから、狩猟圧による頭数減も、厳密にいえば考える必要はあります。

日本へのオオカミ再導入後は、奥山地域はオオカミにまかせ、周縁を人間が管理するという姿になるので、この一連の地図はその姿を想像する材料になると思います。


最後の1枚は、2012年に発生した、家畜や飼い犬のオオカミによると認定された被害地を示すものです。

中西部の五大湖沿岸では、畜産業は森や湖水地域を切り開いて、森の中の島のような形で牧場を作っている場合が多く、オオカミ生息地域の中での被害はそうした放牧地で起きていると考えられます。

2011_wolfterritories

Bux_per_total2

Winter_pop_per_total2

Fall_deer_per_total2

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2012年9月 9日 (日)

「よみがえれ 知床   100平方メートル運動の夢」を読み返す~オオカミ復活のシナリオ

2010年3月、オオカミ復活のメルクマールの一つとなるような本が出版されました。


Img001

「よみがえれ 知床   100平方メートル運動の夢」辰濃和男編著 関根郁雄 深沢博


この本は、知床の自然保護の苦しい闘いの記録です。

森林伐採をやめさせるために木にしがみついて守った人たち、トラストの仕組みを考え出し、日本全国から支援を集めた人たちの長い苦闘の記録です。



知床の自然を守る闘いは、人間対人間、保護対開発の構図の中では、知床の人たちが勝ったといえます。国有林の伐採を進めようとする林野庁と、知床の自然の貴重さを知った保護派の人たちの対立の構図は、保護派の理が勝ち、全国からの支援を集め、草の根の力が、官庁の無味乾燥な論理を突き崩し、保護派の勝利に終わりました。


世界自然遺産への登録は、その成果です。


ところが、その裏では、別の闘いが始まっていました。



エゾシカの増加です。守ったはずの森林が、内部から崩壊するのを知った人たちは、同じ構図の中で植林した木を守ろうとしています。エゾシカの食害を防ぐために、樹木にネットを巻き始めたのです。ところが今度は、前回のように樹木を守ることはできません。



伐採業者と違い、24時間、どこにでも出没し、ほしいものを手に入れるまで決して諦めないエゾシカを防ぐことは不可能だからです。

            

この本の最後に、その知床の悩みが、100年後の知床半島を予想する形で記されています。

この終章が知床半島の“今の”現実です。



               

 

『よみがえれ 知床』目次

第一部 知床で夢を買いませんか

第一章 藤谷町長、「夢」を追う

第二章 運動の広がり

第三章 土地を買い取る

第四章 開拓地での生活

第五章 伐採問題が残したもの

第二部 知床で夢を育てませんか

第一章 森づくり憲法

第二章 支えあうトラスト団体

第三章 参加者との交流

第四章 世界自然遺産をめざす

終章 未来になにを残すか


 

 

第二部終章から引用します。


未来から見た知床の現在の姿を、感じてください。


                            



【ここから引用】

       

ここで紹介するシナリオは、知床財団理事長の関根郁雄と事務局長の山中正実が描いたものである。むろん架空の未来像ではあるが、長い間、知床100平方メートル運動にかかわってきた二人が、その体験をもとにして描いたものであることをお断りしておきたい。

何よりも大切なのは、エゾシカの問題だ。

*****

            

木々は枯れていった

                  

シカの数を人為的に減らす仕事は、すでに2007年からはじまっていた。その場所は知床岬のある地域だ。ここは、知床国立公園内最大のシカの越冬地になっている。

2010年代以降、シカの「個体数コントロール」は、知床国立公園内の4ヶ所の主要な越冬地で、100平方メートル運動の運動地である岩尾別地区のほか、ルシャ地区、相泊地区でも行われるようになった。

その結果、それぞれ2000年代初頭にくらべて三分の一から五分の一の水準まで数を減らすことができた。しかし、それ以上の抑制は困難だった。そして、この程度の削減では、残念ながら森の広葉樹の天然更新は復活せず、シカに樹皮を剥ぎ取れら他木々の枯死が続いた。

シカの頭数抑制のため、予算と労力がつぎこまれ、これが大きな財政負担となった。主要な越冬地のうち、年に二ヶ所ずつ抑制計画を実施するとしても、年間数千万円の費用が必要なのだ。しかも、シカの捕獲を休止すると、数年から十数年程度でその数が元に戻ってしまうことがわかってきた。

森の植生が自然に回復する状態になるまで、シカの数を抑えることはついにできなかった。四ヶ所以外は手をつけることさえできなかった。

********

            

2007年にはじまったシカの人為的削減の仕事は、目標の達成が困難であり、財政的な負担もかさむことなどの理由で、20年後の2027年、中止になった。

 

人間の側が「白旗」を上げざるをえなかった。

                

*******

                  

新しいシカ抑制策は?

やがて、本来の生物相の復元を図るためには、シカの捕食者として、オオカミの再導入が必要だという議論が俎上にあがることになり、その是非をめぐって、全道的な論議がまきおこった。                  

*************

オオカミは・・・・道東一円に分散してゆく恐れがある。そうなれば家畜への被害が発生し、人身被害も出てくると心配する声がでてきた。

一方では、世論の変化もあった。人身被害の懸念は誤解であることが認識されるようになってきた。人間がゆがめてしまった生態系を元に戻すために、北海道の本来の動物相を取り戻す必要性を求める人たち、つまりオオカミの再導入を求める人たちが増えてきたのだ。

*******

                     

2030年、環境省は、知床世界遺産地域の生態系を本来の姿に戻し、シカ問題を解決するため、オオカミの再導入を選択肢の一つとして検討することを決断した。

(公聴会がいくどとなく繰り返され)

2045年、ついに知床岬に1パック、ルシャ地区に1パック、あわせて15頭のオオカミが放たれた。

*****

               

【引用終了】

そして2060年代後半には、シカの密度が80年代初頭レベルまで低下し、防鹿柵の撤去が始まり、2110年には森の衰退が止まった、というシナリオです。

このシナリオでは、環境省は2027年に人為によるシカの個体数調整を諦め、白旗を上げます。

現在から15年後です。

今、現実の森林の姿を見回して、15年の歳月がどれほど重いものか、わかっていただけるでしょうか。
シカの急激な増加が始まった森では、10年どころか数年で、あっという間に姿を変えます。その変化のスピードは年々加速しているようにも感じられます。

植物が食べつくされ、植物に依存してきた生き物が姿を消して、「鳥も鳴かない山」に成り果てるのに、たいした時間はかかりません。


                           

15年も待つわけにはいきません。

シカ捕獲事業・高知では目標の半数以下、過去最悪の被害額、広域捕獲も打ち切り

<>

<>

(高知)県内シカ捕獲手詰まり
2012年09月08日08時11分

 県内で深刻な農林業被害をもたらしているニホンジカの捕獲が、シカの「自然増」に追いつかない状況だ。昨年度、猟銃とわな猟で過去最多の1万3468頭を捕獲したが、県が目標とする「年3万頭」には遠く及ばず、被害額は過去最悪の1億2408万円。昨年度に新設した「広域捕獲実施隊」の事業も効果が薄いと単年度で打ち切られ、対策に手詰まり感が漂っている。

 

高知新聞

 

http://203.139.202.230/?&nwSrl=292946&nwIW=1&nwVt=knd

 

 

環境省は、狩猟振興でシカを抑えると言い続けてきました。

シカ対策を主導する研究者たちも、狩猟や管理捕獲のさまざまな方法を提案してきましたが、現状はどうでしょうか。

シカの管理捕獲や保護管理計画でよくお名前を拝見する梶光一、松田裕之両先生、

お聞きしたいものです。いったいうまくいっている地域はあるのですか。

 

関わるすべての地域で失敗しているのではありませんか?

 

 

今まで多くの研究者や行政の専門家は、「オオカミ」という言葉さえ封印し、タブーにしてきたように見えます。

 

いかに「オオカミ」「復活」という言葉を使わずに発表するか、汲々としているかに見えます。

議論さえ許さないという雰囲気は、日本ではまったく別の分野やテーマでも往々にしてありますが、

「オオカミ復活」「オオカミの再導入」というテーマは、それほどのタブーなのでしょうか。





カリフォルニア大学のジェームズ・エステス(
James Estes)教授が

「科学者や資源保護の関係者は、

主に下位から上に向かって生態系を検討してきたが、

それでは非常に複雑な方程式の半分しか

見ていないことになる」


と言うように、オオカミという頂点捕食者(上位)から日本の生態系を見ることが必要ではないのでしょうか。

2012年9月 8日 (土)

尾瀬の問題  シカ害対策  尾瀬サミットのニュースから

シカ駆除で法改正検討 尾瀬サミット【福島】

2012年09月05日 10時24分配信

環境省は、尾瀬国立公園でのニホンジカによる湿原植物の食害対策で駆除について定

めた鳥獣保護法などの改正を検討する。

4日に檜枝岐村の尾瀬沼ヒュッテで開かれた「尾瀬サミット2012」で同省が示し

た。

サミットは昨年、東日本大震災の影響で中止されたため、開催は2年ぶり。

同省は平成21年度から、尾瀬沼周辺など特別保護地区内で銃とわなによる駆除を可

能としたが、23年度の見晴・尾瀬沼周辺の駆除数は14頭で目標の100頭を大き

く下回っている。

ニホンジカは夜間に現れることが多く、地元猟友会などからは銃による夜間駆除をで

きるよう求める声が上がっている。

このため同省は、銃刀法や鳥獣保護法の改正について、関係省庁と協議するとみられ

る。

同省自然環境局の伊藤哲夫局長は「シカによる食害は全国の国立公園で問題になって

いる。今後の制度を考えていきたい」と述べた。

福島放送 2012/9/5

http://www.kfb.co.jp/news/index.cgi?n=201209056


シカの食害対策重点 尾瀬サミット2年ぶり開催【群馬】

 尾瀬国立公園を抱える各県や国などが意見を交わす「尾瀬サミット2012」が4

日、福島県檜枝岐村で開かれ、深刻化するニホンジカの食害への抜本策を求める厳し

い意見が出された。

 2年ぶりの開催となった今回は、主催の尾瀬保護財団理事長を務める大沢知事をは

じめ、福島、新潟各県の副知事や横光克彦環境副大臣、山小屋関係者など約60人が

出席。自然観察会の後に始まったサミットでは、入山者数や自然保護、木道の復旧対

策など現状が報告され、特にシカの食害が悪化している点が強調された。

 環境省の調査では、シカは日光方面から広範囲で移動しており、尾瀬ヶ原では今年

度、夜間調査で120頭の個体を確認。昨年度に掘り起こされて裸地化した湿原が約

3000平方メートルに上るなどの被害があった。一方、昨年度の捕獲数は群馬県側

で16頭、福島県側で14頭にとどまった。

 尾瀬山小屋組合の関根進組合長は、「実際は300から500頭はいる。捕獲の成

果が上がっていない」と指摘。環境省に必要な方策を実施するよう求めた。

 環境省関東地方環境事務所は「今の制度でできることと、新しい制度が必要なこと

を考えて検討したい」と回答。今後、尾瀬国立公園シカ対策協議会で具体策を話し

合っていく。このほか、群馬県は、大清水で今月実施する社会実験を事業終了後も継

続したいとの考えを示した。

(2012年9月5日 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20120904-OYT8T01682.htm


尾瀬の利用促進探る 2年ぶりにサミット・福島


 ミズバショウの群生地として知られ、群馬、福島、栃木、新潟の4県にまたがる

尾瀬国立公園の保全や利用促進について話し合う「尾瀬サミット2012」が4日、

福島県檜枝岐村で開かれ、「自然を保護し、災害を乗り越えた尾瀬へ多くの方々に訪

れてもらう」とする共同アピールを採択した。昨年は東日本大震災の影響で中止され

たため、開催は2年ぶり。

 サミットには尾瀬保護財団理事長の大沢正明群馬県知事や本県の北島智子副知事、

環境省の横光克彦副大臣、国立公園の土地の約4割を所有する東京電力の関係者ら約

100人が出席。大江湿原や尾瀬沼を視察後、尾瀬の利用促進などをテーマに意見交

換した。

新潟日報2012年9月5日

http://www.niigata-nippo.co.jp/news/pref/39656.html



              

*************

やはり、尾瀬とのかかわり方が各県で違うため、各メディアの論調も違います。



尾瀬で夜間のシャープシューティングを実施するのでしょうか。

尾瀬だけは守れるかもしれません。

2012年9月 5日 (水)

哺乳類学会:9月20日~23日麻布大学・・・・・そこで何が語られるのか

さ来週、神奈川県相模原市の麻布大学で哺乳類学会の大会が開催されます。

http://www.mammalogy.jp/japanese/

いくつか興味深いテーマが設定されています。

●自由集会W12 ニホンジカの特定鳥獣保護管理計画の現状と課題



演題1 個体数管理の目標設定および達成状況と捕獲の現状 野生動
 物保護管理事務所 濱崎伸一郎 



演題3 特定計画における生物多様性保全に関する現状と課題 自然
 環境研究センター 荒木良太


       

全国の保護管理計画がどの程度達成されているのか、確認することができるはず。


                

●自由集会W23 生物資源としての日本犬の意義を捉えよう


演題1 絶滅した日本オオカミの系統 岐阜大 石黒直隆


演題4 動物園におけるパック形成とはぐれ個体の考察 多摩動物公 園 熊谷 岳(多摩動物園のオオカミがテーマです)

 

石黒先生が行ったDNA解析の結果が発表されたのはもう数年前になりますが、その後の進展が聞けそうです。日本在来犬との交配の可能性についてもお話されるようです。

ブレット・ウォーカーの「絶滅した日本のオオカミ」にも、千葉徳爾をはじめ、犬飼哲夫、直良信夫、平岩米吉等の研究を解説して、日本犬との交配が絶滅の引き金を引いたという仮説が紹介されていますが、実際にDNA解析によって、その仮説の裏づけができるのかどうか、興味を引くところです。

また、多摩動物園のオオカミ飼育担当の方による、飼育下におけるオオカミの行動についての発表があります。

多摩動物園のオオカミ展示は、トラの展示と並んでいて、それぞれに人を集めているのですが、それぞれの動物の前で、観客の反応、話される内容を聞いていると、奇妙なことがわかります。

トラの前では、「かっこいい」「美しい」というような反応をする人たちが、オオカミの前に立つと、子供に向かって「襲われちゃうぞ~」とか、「オオカミは後ろから肩に前足をかけて、のどに噛み付くんだ。だからオオカミに道で会ったら、すぐに走って逃げるんだぞ」とか、とたんに人が襲われる話をし始めるのです。

実際にはオオカミは犬のような、かわいらしい外見をしているし、獰猛さなんて感じないのにね。

野外で会ったらトラのほうがよっぽど怖い存在なんですが、そんなことは観客のイメージの中にはほとんどないようです。

また、ポスター発表には、シカの増えすぎと他の動物の関係、つまり種間関係を対象とした発表があります。

●ニホンジカによる上位捕食者への影響

●ニホンジカの高密度化がネズミ類とその捕食者に与える影響

●カモシカとシカは競合しているか

●岩手県手代森地区におけるニホンジカとカモシカの関係

 

北アルプスに定着してしまったニホンジカの追跡も

●長野県北アルプス北部におけるGPS首輪を用いたニホンジカの行動追跡

知床におけるシャープシューティングの結果も

●知床半島ルサー相泊地区におけるシャープシューティング

            

あり、聞きたいテーマがてんこ盛りです。

参加できないのが残念です。

参加者の報告が聞けたら、ここでご紹介します。

メディアの方も、取材されると日本全国が獣害列島と化していることがよくわかっていただけると思います。

そして、こうした学会に参加されれば、いかに有効な対策がないか、ということもおわかりいただけるでしょう。

オオカミ再導入に関しては、こうした学会では議論さえ起きないこともよくわかります。(石黒先生の発表や多摩動物園のオオカミの行動についての発表などは、再導入にどう触れるか、それとも触れないか、注目です)

 

また、今まで当ブログに取り上げてきたような、アメリカの生態学者が発してきた、頂点捕食者を欠いた生態系がいかに危ういか、草食獣の増えすぎが何をもたらすか、という強い警告を、日本の学者の口から聞くことができるのかどうか、みんなで注視していきたいものです。

「私たちはこんなことをやっている」という報告だけでなく、「状況は許しがたいほど悪化している」と警告を発するのが、研究者や学会の役割ではないでしょうか。

      

そうした言葉を、私たちは聞きたいのです。

実際に、状況は許しがたいほど悪化しています。

2012年9月 3日 (月)

今年の尾瀬と尾瀬自然学校展示

今年も尾瀬に仲間がシカの調査に行っています。

事情により、今年は若干小規模なものになりましたが、夜と早朝、尾瀬ヶ原で観察を行っています。

今年も尾瀬ヶ原にシカ道を見つけました。

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シカはますます増えているようです。

減るわけはありませんが。

今年、一つ驚いたことがありました。
鳩待峠への入り口、尾瀬戸倉には、[「尾瀬ぷらり館」という温泉施設や展示スペースも付属した尾瀬自然学校の施設があり、東京電力が運営しているのですが、

その展示パネルに昨年は見られなかったものがありました。

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下の台に並んでいる小さな2枚のパネルのうちの左側、しかもその下3分の1の記述がその驚くべきパネルです。今までにない画期的なもの、というのは、ごく普通の施設の展示でこういう解説にお目にかかることは稀だからです。

ほんの小さなスペースですが、オオカミ再導入派にとっては、アームストロング船長の一歩のように大きな一歩でした。

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2012年9月 2日 (日)

大型捕食動物の減少、地球の生態系を破壊 米研究

ちょうど1年ほど前の記事ですが、ある論文がサイエンスに発表されたと伝えるものです。

日本で起きている草食動物の激増は、世界中で起きていることのようです。


大型捕食動物の減少、地球の生態系を破壊 米研究


            
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2813455/7502967


               

【7月16日 AFP】サメやライオン、オオカミといった大型の捕食動物の数は世界全体で減少傾向にあるが、その結果、地球の生態系全体に異常な変化が起きているとする論文が14日、米科学誌サイエンス(Science)に発表された。


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 6か国22研究機関の科学者たちがまとめたこの論文によると、地球は現在、有史以来6度目の大量絶滅期の最中にある。しかし、過去の大量絶滅とまったく違うところは、今回は完全に人類の活動によって引き起こされているという点だ。


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研究は「生態系の頂点の消滅は、自然界に人類が与えたなかで最も広範囲にわたる影響だろう」と説明している。


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論文の主著者である米カリフォルニア大学サンタクルス校(University of California at Santa Cruz)のジェームズ・エステス(James Estes)教授は「科学者や資源保護の関係者は、主に下位から上に向かって生態系を検討してきたが、それでは非常に複雑な方程式の半分しか見ていないことになる」と説明する。


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「これらの発見は、食物連鎖の頂点が自然の生態系の構造、機能、多様性に多大な影響をもたらしていることを示している。こうした捕食動物は、食物連鎖のなかで機能することで最終的に人類を守っている。これは彼らだけの問題ではない。私たち自身の問題だ」



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同じことが起きています。日本でも。でもエステス教授のように、警告を発している生態学者は、現役では、宇都宮大学小金澤教授ただ一人です。初めてシカによる食害への警告を発してオオカミ再導入を提案した本オオカミ協会丸山直樹会長(東京農工大名誉教授)とただ二人です。


他の研究者たちは沈黙を守るか、「オオカミ再導入など論外」という立場か、どちらかです。

この論文の記事を見れば、世界の生態学の最新の知見は、エステス教授が説明するように

「食物連鎖の頂点が自然の生態系の構造、機能、多様性に多大な影響をもたらしている。捕食動物は、食物連鎖のなかで機能することで最終的に人類を守っている。これは彼らだけの問題ではない。私たち自身の問題だ」

次の段階は、人間が排除してしまった地域に、オオカミを再導入するかどうか、の議論です。議論さえ避けている日本の研究者は怠惰そのものです。

2012年9月 1日 (土)

ウィスコンシン州のオオカミとシカ

フェイスブックのアルバムに、ウィスコンシン州自然資源局(WDNR)から、オオカミの群れの分布とシカの分布と密度、それにオオカミによる被害地図を並べてみました。

うぇるかむウルフ倶楽部 

ウィスコンシンのオオカミ、シカ

http://www.facebook.com/#!/media/set/?set=a.193789690755007.47656.139864879480822&type=1

本当は並べるのではなく、順に1枚ずつ重ねて見られるといいのですが、フェイスブックのアルバムでスライドショーのようにしています。

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