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2013年2月 3日 (日)

「肉食獣の再導入問題をめぐって」石城謙吉 中川元(2005)~オオカミ再導入の可能性は少なくない

「知床に再導入したオオカミを管理できるか」(米田政明2006)に関する疑問

http://nikkokekko.cocolog-nifty.com/wolf/2006.html

では米田政明氏の論考への疑問について書いた。

この米田論文がオオカミ再導入反対の論拠に使われることは多いが、同じ知床博物館研究報告2005年にある

「肉食獣の再導入問題をめぐって」石城謙吉 中川元

http://shir-etok.myftp.org/_media/shuppan/kempo/2606_ishigaki-nakagawa.pdf

が話題になることはほとんどない。

こちらは、オオカミ再導入容認派だからだろうか。

こちらの論考は、正確にオオカミの姿を捉え、米田論文にあるような恣意的な誘導のようなことを行っているようなものではない。

一部抜粋しつつ要旨を紹介する。

この論考は、肉食獣としてオオカミとカワウソを扱っているので、対象をオオカミ絞ることにする。

まずオオカミと人間の関係については、以下のように評価している。

家畜は別として,人間に対する危害に限ってみれば,オオカミがまだ生息していた時期の北海道で人間がオオカミに襲われた事例はない.また先住民族のアイヌにとってもオオカミは害獣ではなく,むしろシカ猟にたけた尊敬すべき神(ホーケルカムイまたはオオセカムイ)としてみられていた.さらに和人との長い歴史を持っていた本州以南のニホンオオカミの場合も,17世紀に日本に狂犬病が入って以降の狂犬病罹病個体によるものを除けば,彼らが地域住民に忌み嫌われていた形跡はない(平岩 1981).」

日本でもヨーロッパと同様狂犬病罹病個体によるものを除けば襲撃の記録はないことを述べている。

次に世界的には肉食獣の復元の潮流があることを紹介している。

大型肉食獣の復元運動-世界の動向

近年,世界の各地で“絶滅種の復元”の運動が進められている.ある地域で絶滅してしまった生物を,まだ生き残っている他の地域から再導入して復活させようとするものである.

  たとえば鳥類では,イギリスのスコットランドで,狩猟やコレクターによる卵採取で20世紀初頭に絶滅してしまったオジロワシをノルウェーから再導入して復元する運動が1956年から始められ,これはすでに成功している(Love 1988).哺乳類についてみると,Reading & Clark(1996)によれば,ヨーロッパではオオヤマネコの再導入による復元が1970年代以降ドイツ,オーストリア,スイス,フランス,スロベニアなどの諸国で取り組まれてその多くが成功しており,またオーストリアでは1992年にヒグマイギリス東部ではカワウソの再導入も行われている.そのほかスコットランドでは1994年頃からオオカミ復元のための運動が保護団体によって進められているようである.」

これらの復元の対象がすべて肉食獣であることについても触れる。

「一方北米大陸でも,オオカミ,アカオオカミ,カナダオオヤマネコ,ボブキャット,フィッシャーカワウソなどをはじめとするさまざまな哺乳類の絶滅地域への再導入が進められてきている.これらの早いものは1950年代に始められているが,大半はヨーロッパの場合と同様に1970年代以降である.また哺乳類の再導入はアフリカでも行われており,1980年代以降ライオン,ヒョウ,チーター,リカオンやハイエナなどの絶滅地域への再導入が各地で試みられている.

  こうしてみると,地域で絶滅した動物の再導入による復元は,現在世界の各地で行われつつあることがわかる.しかもそれらの多くは1970年代以降に行われるようになっている.これは近年自然の荒廃による生態系の破綻や生物多様性の喪失が,世界的に憂慮されるようになったことと無縁ではない.また,再導入の対象となっている動物の多くが肉食性のものであることは,肉食獣が食物連鎖の上位にあり,乱獲や自然の荒廃の影響をもっとも強く受けて絶滅しやすいためとみてよい.」


では肉食獣でなければならない理由はなにかと言えば、もちろん頂点捕食者の機能が必要だからである。


「では,なぜそうまでしての大型肉食獣の再導入なのか.その第一は,いうまでもなく本来の生物相の復元にある.しかも,それは単なる“欠員の補充”ではない.自然界における肉食獣の役割の見直しからきている.大型肉食獣は自然界の食物連鎖の頂点に立つ「ターミナルアニマル」である.したがって彼らは地域の生物群集全体に直接・間接の影響力をもつものと言ってよい.そのターミナルアニマルを失った結果として起こるのは,生物群集の中の特定の種の異常な増殖や減少といった自然の歪みである.その典型的な例が,現在の知床一帯の自然と言ってよい.絶滅を免れて徐々に数を増やしてきたエゾシカが,重要な捕食者であったオオカミがいない中で昭和60(1985)年頃から大増殖を始め(岡田ら 2000),それによって森林内の稚・幼樹が食い尽くされるようになり,さらに近年では大径木の樹皮食いが広がっているほか,ニワトコ,マユミ,ツリバナやガンコウランなどのエゾシカが嗜好する植物の絶滅も今では心配されている(石川 2005).

大型肉食獣復元の狙いの一つは,このような自然界の歪み,乱れを正して本来のバランスを取り戻させることにある.


今ならキーストーン捕食者と呼ぶところを「ターミナルアニマル」と呼んでいるが、大型肉食獣が失われることによって、自然界に歪みが生じるため、「乱れを正して本来のバランスを取り戻させる」という。

それは単なる欠員の補充ではない。

次に北海道に再導入する場合の自然条件を確認する。



再導入のための自然条件はあるか-北海道の現状と今後

「一方オオカミについてみると,北海道は現在も全面積の7割にあたる560万ヘクタールの森林を維持している.そのうち150万ヘクタールは人工林化され,また天然林も戦中・戦後の過伐によって著しく荒廃してはいるものの,森林面積自体は戦前以来基本的に変わっていないのである.さらに,狩猟と並ぶ大きな絶滅要因だったエゾシカの激減も現在では大きく状況が変わっている.絶滅を免れたエゾシカは,かつての捕食者であったオオカミの不在と禁猟措置のもとで戦後一貫して全道的に増加を続け,その結果今日では農業と林業に多大の被害をもたらすまでになっている.森林再生専門委員会における第2次復元生物の検討の中でオオカミが取り上げられた背景には,運動地を含む知床一帯でのエゾシカの異常増殖を如何にして抑制するかの論議もあってのことだった.こうしてみると,さらに検討すべき点はあるものの,北海道にはオオカミ復元の可能性は,自然条件の面では少なくないと言ってよいと考えられる」.



北海道にオオカミ復元の可能性は少なくない。



では今後に向けて、オオカミ再導入に必要なものは何だろうか。


再導入の社会的条件-コンセンサスと法整備

「こうした島への肉食獣の再導入は,人への危害や一次産業への被害などを始めとする社会的影響についてのとくに慎重な検討と道民のコンセンサスが不可欠なのは言うまでもない。オオカミによる人身被害についてみると,オオカミが生息していた時期の北海道には先にも述べたようにその記録はない.また記録に残るヨーロッパや北米での事例も狂犬病の罹病個体やイヌとの交雑個体などによるものにほぼ限られていることが今では明らかになっている.ただ,インドなどの一部地域では現在もしばしば人身被害が起きている事が知られている.このような地域による違いは,住民の生活様式やそれによるオオカミとの接触の違いからきているものと思われる.それはオオカミとの間にどのような“ル-ル”が歴

 史的に結ばれてきたかによるとみてよい.したがってオオカミの再導入に関する論議は,こうした事実をふまえて人間との共存の可能性を検討する必要がある.また,オオカミがきわめて学習能力の高い,優れた社会性を持つ動物であることも考慮されるべきである.

 

 しかし,一定の家畜被害は予測されることから,それがどの程度のものか,その被害を社会的にどう補償するか,また被害を最小限に抑えるためのオオカミの個体群管理をどのようにするか等について,欧米の現状を参考にして検討する必要があるだろう.」



重要なのは住民とのコンセンサスと法整備である。

再導入地が知床である理由は、知床を原生の自然に戻すためには、オオカミとカワウソが必要であり、その二つの種は、再導入という人為的な手段なしには復元は望めない。



 「しれとこ100平方メートル運動の対象地である斜里町岩尾別地区は,大正初期に開拓の手が入って原生林が伐り開かれた地域である.しれとこ100平方メートル運動は,いったんは森林を失ったこの土地を再び本来の原生の自然に戻すことを目標に,ナショナルトラストとして立ち上げられた.それ以来続けられている森林再生の仕事が進むにつれて,ここには本来の生息種である各種の哺乳類や鳥類が戻ってくることが期待されている.

しかしオオカミとカワウソは北海道全域で絶滅した動物であり,再導入という人為的手段なしには復元は望めない.



最後にこう述べて締めくくる。



(肉食獣の再導入について)

森林再生専門委員会のこれまでの検討結果や集められた資料が,今後のより広い範囲の論議に役立てられ,日本における自然保護の新しいステップとして行政を含めた検討の段階へと進んでゆくことを願って止まない.」

 という訳でこの論考は、オオカミ再導入について賛成してくれている。

 生態学の専門家が、偏見や先入観なしに現状の世界の潮流を取り入れて。冷静な判断をするなら、こういう結論になるのが当然なのだが、どうして日本では専門家の間で、「オオカミ復活」が忌避されているのだろうか。

 



この石城謙吉さんの見解に基づいて、と思われるが、「オオカミ再導入推進」の方針が2002年知床100平方m運動の方針として機関紙にも掲載された。石城氏のご挨拶にも、躍るような文章でその決意が書かれていた。

これが知床の関係者の総意かと思われたが、そうではなかったようだ。

 

石城氏が「しれとこ100平方メートル運動地森林再生専門委員会」の座長を退任されてから、この委員会は沈黙したように見える。

 

そして、機関紙等でも方針変更のお知らせはなかったが、2011年に刊行された「エゾシカは森の幸」(大泰司紀之+平田剛士著 近藤誠司(エゾシカ協会会長)監修)という本に、知床のオオカミ再導入に関わる結論としてこう書かれていた。

「人身事故や家畜被害の防止対策と補償体制を含む総合的なオオカミ管理システムを構築し、リスクは覚悟のうえでオオカミ再導入の意義を社会が認めることが先決です。それがない限り、知床へのオオカミ再導入は限りなく不可能に近い、というのが上記専門委員会の結論だったといえます。」

石城氏の論考、機関紙の宣言とは正反対の結論が、その委員会で出たと読める。

 

100m運動の機関紙は、知床財団になっても毎回目を通しているが、そのような見解の変更を読んだ記憶はないまたこの著者たちが委員だったということも、ネットワーク上では知りえない。

 

外部からこの様子を眺めると、石城氏が退任された後、こうした関係者が委員会へ圧力をかけ

結論を覆されたように見える。

その経緯と結果は、外部にはもれていない。

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コメント

初めましてブログ主さま。
ブログを拝読致しまして、ふと疑問に思うことがありましたので投稿させていただきます。

疑問としてはなぜオオカミでなければいけないのか?です。
日本の環境に適応できそうな動物であれば、オオカミにこだわる必要がないと思うのですが
生態系保護を前提に考えるなら、オオカミ以外の動物も検討してもよいのでは?と
オオカミ以外の動物の導入をお考えになったことはございますか?

お忙しい中大変申し訳ございませんが、ご回答のほどをよろしくお願い致します。

コメントありがとうございます。
オオカミ以外の動物を考えたことはありません。
理由は、オオカミという種は過去日本に棲んでいた動物であり、その他の捕食者はいなかったからです。いたとしても化石に残るほどの古い時代です。人間との共存を考えれば、そこまで古くまで遡って復元する必要はないと思います。
日本の生態系に、オオカミ以外の動物を持ち込むことは、生態系のかく乱ということに当ります。
したがって論ずるまでもないと考えています。

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