イエローストン・サイエンス:科学大論争 栄養カスケード~だれもトップダウン効果が重要ではないと主張する人はいない
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オオカミ復活論入門
イエローストン・サイエンス:科学大論争 栄養カスケード~だれもトップダウン効果が重要ではないと主張する人はいない
2018年7月28日
号外No.11
By
Asakura
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【イエローストン・サイエンス】
オオカミ再導入から20年を記念して2016年に論文集が発行されました。
イエローストンのオオカミと周辺の動物たちに関する研究成果がつまった、超おもしろ論文集になっています。
これから翻訳、要約して発信していきます。
https://www.nps.gov/yell/learn/upload/YELLOWSTONE-SCIENCE-24-1-WOLVES.pdf
以下は、「The Big Science Debate: Trophic Cascade」 「科学大論争 栄養カスケード」というタイトルのコラムです(p70)
筆者は、ダグ・スミス、ロルフ・ピーターソン、ダニエル・マクナルティ、マイケル・コールという、大ベテランと若手が組んだ研究者チームです。
ダグ・スミスはイエローストンの再導入当初からの研究者、ロルフ・ピーターソンは、ロイヤル島のオオカミ研究をミーチ博士に次いで長く手がけている大ベテラン、そしてダニエル・マクナルティは、イエローストンのオオカミ再導入時1997年から始まった外部研究者とのコラボレーションプログラムに大学院生として参加した若手研究者です。
彼らが総括したイエローストンの「栄養カスケード」の論争は、論点を網羅したものになりました。
コラム全文を和訳しましたが、必ずしも英文に忠実ではありません。読みやすい日本語にしました。間違いがあるかもしれませんので、気がつかれたらご指摘ください。
(小見出しは翻訳者がつけたものです)
【科学大論争 栄養カスケード】
●オオカミは生態系にどんな影響を与えているか
オオカミは議論を呼ぶ動物だ。科学的な議論は、普通は文化的な類の、彼らはいかに管理されるべきか、あるいはまったくいるべきではないのか、といった議論に席を譲る傾向があるが、おそらく、これらのなかでもっとも激しい論争は、獲物へのオオカミのインパクトである。
その答が野生動物管理に影響するかもしれないため、である。イエローストンでは、科学の分野でユニークな論争が生まれた。オオカミが生態系にどんな影響を与えているか、に疑義をはさもうというのである。(Peterson 他2014)
これは、機能としてオオカミや他の肉食獣(クマを除く)が20世紀中不在であったため、興味深い話になる。そしていま彼らが帰ってきたことにより、比較することができる。
単純な話に見えるが、そうではない。自然は複雑なのである。
●栄養カスケードという現象と論点
議論は、「栄養カスケード」と呼ばれる事象に、つまり食物網のなかで、種の間の相互作用はいかに行われるのかが中心である。
(人が作り上げることはほとんど不可能な複雑なことを、自然はどうやって作り上げているのか)
栄養カスケード、すなわち捕食者のインパクトとは「一つの栄養段階から流れ落ちて、生息密度や次の段階の獲物の行動に影響する現象」のことである。(Silliman and Angelini 2012)
そこでの疑問は、単純に、オオカミは植物にいかにインパクトがあったか、である。私たちが言っているのは、主にハコヤナギやアスペンのような植物のことである。
20世紀のほとんどの期間、これらの樹木は、エルクの食圧のおかげで高く伸びることができず押えつけられてきた。(それが国立公園局のエルク削減策につながる)
オオカミの復活によって、植物はシカの採食圧力から解放されることになった。(Painter 他2015)多くの研究はこのシナリオに(若干の例外はあるが)賛成し、論点はどうして急な成長がおきたかについてになった。
●トップダウンとボトムアップ
理論的には、議論はトップダウン対ボトムアップという構成になる。
トップダウンは捕食者が獲物を食べ、その獲物の数を減らすこと(あるいは行動を変えること)であり、食べられていた植物を減らす原因になる。ボトムアップは太陽光が植物を生長させ、植物の供給が捕食者の頭数を決定することである。そのどちらが重要なのか?
イエローストンには何十年も捕食者がいなかったため、彼らが戻ってきた今、その生態系を捕食者の復活後とを比べることができる。
これは実験としては厳密に実施することはできないため、多くのコントロールできない変数がある。それが論争を呼んでいる理由だ。解決されるべき最初の問題は、これがどうやって働くのか、である。
初期には、「恐怖の景観」のアイデアが表明された。オオカミがいない場合、エルクは制約されずに景観のなかを歩き回っていた。(Brown 他1999)
オオカミはこれを変化させた。場所によっては、エルクはオオカミの攻撃を受けやすくなるので、エルクはこうしたリスキーな場所を避けた。
短期には、このエルクの行動の変化は、ハコヤナギがエルクの頭数が本当に減少する前に解放された徴候を見せた理由を説明することができる。(Beyer 他2007)
こうした行動が栄養カスケードを仲立ちする。一方で反対意見の人もいる。(Marshall 他2013)ただエルクが減っただけだ、つまり数値的な効果にすぎないと。(Kauffman 他2010)どっちなんだ?両方なのか?
●天候、気候の影響
さらにもう一つの議論は場所と川の有効性だった。エルクが少なくなるだけでは十分ではない。(Marshall 他2013)
代わりに、天候と気候変化のせいだという。(Despain 他2005)条件がよく、気候が穏やかであれば、樹木はエルクがいても育つ。また、ビーバーは20世紀初頭、エルクの増加とともにいなくなった。
ビーバーがいなくなったことで、川の流れが変わり、ハコヤナギとアスペンを減らす方向に変化した。(Wolf 他2007,Bilyeu他2008)ビーバーが肝だったのだ。
ハコヤナギの生長の変化の原因を追究することは難しい。あまりにも多くの要因がいっせいに変化したのだ。
●トップダウン効果が重要ではないと主張する人はいない
短期には、非常に複雑な議論を競わせた。この議論を解決する道はあるだろうか?
膨大なサイズと費用がかかるにもかかわらず、ある人は正しい実験をデザインする必要があると言う。
重要なことは、気候仮説以外に、だれもトップダウン効果が重要ではない、あるいは下位の栄養段階への捕食にインパクトがないと主張する人はいない、ということだ。
議論されていることは、樹木の変化がオオカミ(あるいは他の肉食獣の)のエルクに対する影響のせいなのかそしてこうしたトップダウンの影響が食物網を通じて波紋のようにいかに広がるか、ということだ。
反対意見の一部は、オオカミは一つの機能にすぎない。クーガーの復活やクマの頭数の増加、もちろん公園の外のエルク管理(それは公園の外でエルクを減らし、公園内では維持している)を無視しているところからきている。
もう一方の批判は、大きすぎるインパクトをエルクのせいにしすぎている。水場の有効性のような要因が一体のものとして説明される必要があるという主張だ。エルクの減った乾いた土地では、ハコヤナギの変化は観察されていない。
●ダメージが大きすぎたのか
もう一つの疑問は、ハコヤナギの分布である。ハコヤナギとアスペンのある地域はまったく増えなかった。
変化は現在の植物群の高さが変わっただけだったが、それはビーバーの存在に左右されているのかもしれない。
イエローストンの20世紀半ばの変化は、かなりのもので、エルクが減少し始めてから20年では、長期間の樹木のダメージを払拭するにはまだ短いのかもしれない。(Wolf 他2007)
●エルクはオオカミの捕食リスクに応じた行動をする
最後に、もっとも最近の発見で、オオカミとエルクが、イエローストンの様々な地形のなかでいかにして互いに影響しあうのかを解明したことは重要であった。
ことによると、最も激しい論争は、オオカミがエルクにどんな影響を与えるかが中心になる。
これは「行動に関する議論」対「数値に関する議論」であり、典型的な二者択一の論争である。
しかし、もしオオカミとエルクが互いに影響を与えあっていなかったとしたら?いったい何が起きたのか。
何年もの念入りな、オオカミとエルクに首輪をつける作業の後に、答えは明らかになってきている。
エルクはオオカミの捕食リスクに行動で応える、しかし常にではない、彼らはオオカミがアクティブなときだけ、リスクのあるエリアを避けるのだ。これは興味をそそる発見である。エルクが減少したとしても、彼らがオオカミの行動にあわせて動くことで、樹木の採食が増えるかもしれないのだ。
エルクはリスクのあるエリアを避けているのではなく、オオカミに気がついて避けている。こうしたいくつもの要因が束になって、特に水辺では数十年も続いたエルクの採食圧から解放されるようになるかもしれない。
気候変動を含めて多くの要因がありうる。しかし気候のせいだけだということも難しい。確かに我々は進歩した、しかしまだすべてを理解はできていない。
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