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« イエローストン・サイエンス:科学大論争 栄養カスケード~だれもトップダウン効果が重要ではないと主張する人はいない | トップページ | 「日本のシカ」 第6章 捕食者再導入をめぐる議論(梶光一) のミスリード② »

2018年8月12日 (日)

「日本のシカ」 第6章 捕食者再導入をめぐる議論(梶光一)のミスリード①

 

2017年に梶光一氏、飯島勇人氏編で出版された「日本のシカ 増えすぎた個体群の科学と管理」東京大学出版会(2017)は、現在のシカの爆発的増加に対処するシカ管理の取り組みを紹介した本です。

現在のシカ管理が、どのような考えの下、何を目指して実施されているのかがよく理解できる労作であることは間違いありません。

 

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しかし、第6章「捕食者再導入をめぐる議論」(梶光一)は、いただけません。(彼にとっては)現在のシカ管理の対極にあるオオカミ再導入を否定したいがために、大きな勇み足を犯しました。

この章の結論部分で梶氏は、いつもの持論を展開しています。

日本にはオオカミ再導入のためのリスク管理の備えがなく、野生動物管理システムが整備されていない。いつかなうかわからないオオカミ再導入に頼らず、人間がシカを利用する仕組みを再構築し、野生動物管理の社会基盤を構築する必要がある。

「そのうえで、知床では、失われた生態系プロセスの復元のために広域知床生態系保護区を設置し、社会がオオカミを受け入れる時代の到来を待つというのが筆者の考えである。ただし、再導入したオオカミだけではシカの数を調節できないことは認識しておく必要がある」

 

「社会がオオカミを受け入れる時代の到来を待つ」なら、オオカミに関する欧米の議論も正確に社会に伝えなければなりませんが、彼はこの章で、引用文を何カ所も切り取り、彼の持論の「オオカミだけではシカの数を調節できない」という結論の根拠に都合よく使っています。これは原著論文と正確に比較すればわかるけれども、よほどよく知っていなければ、そうだったのか、と誤った印象をもってしまうようなやり方で、あきれるほどの巧妙さです。

 

いくつかの引用文のあえて行った意図的なミスリードを指摘し、梶氏への批判としたいと思います。

Photo

【梶氏執筆の「第6章捕食者再導入をめぐる議論」の問題部分。私のメモ入りですが】

 

6章「捕食者再導入をめぐる議論」の104pからの節に、イエローストン国立公園へのオオカミ再導入を事例として、その歴史から、オオカミの役割に関する現在の議論の内容までを紹介しています。そこで彼は、オオカミ再導入後、エルクの数が減少したこと、そしてその原因はオオカミであるとされたが、反対する意見もあることを述べた後、オオカミの研究で有名なミーチ博士の論文を引用します。

 

「オオカミの生態研究で有名なミーチ博士からは、初期に発見されたオオカミによるとされるカスケード効果は人為的な影響が主要因であり、オオカミの分布とは関係がないとの論文を公表して、オオカミを神聖視することに警告を発している(Mech,2012)」

 

ミーチ博士がイエローストンのカスケード効果にオオカミが関係ないと書いているとは、初耳でした。この論文の2012年以前も、2015年に来日されたときも、「オオカミによるとされるカスケード効果は人為的な影響が主要因」などという彼の発言は聞いたこともありません。

2016年に来日したミーチ博士と親しいオオカミ研究者バーバマイヤー博士が、ミーチ博士の紹介で来日されたときも、イエローストンのオオカミによるエルク減少を議論していました。

 

引用文献を参照すると、梶氏が引用しているミーチ博士の論文は

Biological Conservation,150:143-149掲載の「Is science in danger of sanctifying the wolf?

 

バーバマイヤー博士から論文を送ってもらい、梶氏が引用した部分を探すと、、、

これかなと思われる表記は論文中にありました。

 

「イエローストンのエルク減少の主要因がオオカミかどうか科学的にはまだ合意されていない。その問題については、仮に、他の要因がエルクの減少を引き起こしたとして、“たとえば”人間の狩猟が、同様の栄養カスケードを起こさないと考える理由はない」

というものです。

 

この一文は、オオカミの復活により、オオカミを過度に神聖視する人々と、害獣視する人々との対立が深まるなかで、科学的に議論して、オオカミの管理を考えるべきだ、という文脈にあり、「エルクの減少によるカスケード効果は明らかだが、そのエルクを減らした主要因がオオカミかどうか、という点にはまだ科学的な合意は得られていない」と、オオカミが植物にまで影響するカスケード効果の出発点であるという主張には3つの疑問符が示されていて、その3つの例示の一つであり、ミーチ博士自身の主張ではありません。

 

この論文全体の主旨は、たとえば「How wolves change rivers」というyoutubeで世界中に拡散されている、「オオカミの復活“だけ”がエルクを減らし、栄養カスケードを起こして自然を復活させた」という「神話」の拡散を懸念する内容の「神聖視の危険」を指摘したものです。

 

ミーチ博士は、論文中で何度も「エルクを減らしたのは、オオカミだけでなく、公園の外側でハンティングが多くなったこと、クーガーが増えたこと、クマ(ブラックベア、グリズリー)が増えたこと、コヨーテが増えたこと、干ばつ、厳しい冬などの要因が重なったためで、オオカミの復活“だけ”が栄養カスケードを起こしたのではない」といろいろな論文を引用しながら繰り返し説明しています。「オオカミには関係なかった」という内容の論文ではありません。

 

梶氏はミーチ博士の文章から「クーガーが増えたこと、クマ(ブラックベア、グリズリー)が増えたこと、コヨーテが増えたこと、干ばつ、厳しい冬などの要因が重なった」の部分の引用を回避しました。この論文中で指摘されている栄養カスケードの要因はすべてこのように重複した要因とされていて、「人為的要因だけが関係する」と書いている記述はありません。

 

その後に続く文中で、マクナルティの主張として「オオカミのほかに、さまざまな要因(夏の降水量、冬の厳しさ、人間を含む様々な捕食者)がエルクの個体数変動に影響を与えており」と引用していますが、マクナルティは「オオカミがエルクの個体数の制限に貢献していることは間違いないと確信」と肯定的に書いています。

 

しかし梶氏はご自身の意見表明としてこう続けます。

「日本ではイエローストンのオオカミ再導入の効果が喧伝されているが、個体数調節は検証されていない」

 

オオカミ再導入の効果が世間に喧伝されているとは聞いたことがありません。再導入を主張しているのは、まだ日本オオカミ協会とその周辺だけです。それ以外にあるとは聞いたことがありませんが、梶氏の耳にはよほど大きく響いているのでしょうか。

 

 

ミーチ博士は、この論文の最後のほうで「気候やほかの大型肉食獣との組み合わせで、オオカミは明らかに獲物動物を減少させる。」と書いています。2015年の来日時にも同じことを話してくれましたが、2014年秋のインターナショナルウルフセンター(アメリカ、ミネソタ州:ミーチ博士もメンバーです)の機関誌のインタビュー記事に答えています。このインタビュー自体もやはり、イエローストンではオオカミだけが栄養カスケードの主役ではない、と正確に伝える目的のものでした。

 

Do wolves cause trophic cascade? オオカミは栄養カスケードを起こすのでしょうか?

 

(Mech) Yes they can. 科学は、オオカミやその他の肉食獣が各地で根絶された後、シカのようなオオカミの獲物が増えすぎて植生を破壊するのを見てきた。ミシガン工科大学のロルフ・ピーターソンは、ロイヤル島でバルサムモミの木の生長は、オオカミがどのくらいムースを殺すかということと関係していることを論証した。

 

ミーチ博士は「Yes they can できるとも」と断言しました。イエローストンでは複数の要因が重なって複雑ですが、「オオカミ=ムース=植生」の単純な構成のロイヤル島では、科学的に論証されている、と答えています。同じことは、論文中にも書かれています。

 

梶氏は、ミーチ博士が、あたかも栄養カスケードがオオカミの復活には関係ないと主張したかのようなミスリードを行ったのです。(言い訳も用意して)オオカミの専門家がこう言っているのだから、オオカミ再導入には慎重にならなければ、とこの本を手に取った人たちに印象づけ、オオカミ再導入派には、あなたたちが連れてきた、オオカミ研究で有名なミーチ博士でさえ、オオカミが関係ないって言ってるよ、と書けば黙るとでも考えたのでしょうか。

 

 

他にも見過ごせないミスリードがありますので、梶光一批判を続けます。

 

 

 

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