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2018年8月19日 (日)

「日本のシカ」 第6章 捕食者再導入をめぐる議論(梶光一) のミスリード②

 

梶光一氏のマッカラ-博士に関する記述、仕掛けはもっと複雑です。10年以上も前の「世界遺産 知床とイエローストーン 野生をめぐる二つの国立公園の物語」まで遡る必要があります。

マッカラ-博士は、著者紹介によれば「カリフォルニア大学バークレー校環境科学政策管理学部および脊椎動物学博物館、野生生物学名誉教授で、主な関心は草食動物、肉食動物両方の大型哺乳類の管理と保護」です。イエローストンにも関わりがあり、「日本のシカ」第6章捕食者再導入をめぐる議論」では以下のように知床での提言が引用されています。

 

 

Photo_2

 

ここにあるマッカラ-博士の提言内容は、博士が「オオカミの再導入とは大変困難な事業で、イエローストンでさえ苦労したのだから、日本の行政や土地の状況を見ればもっと大変で、いま知床に再導入できる段階ではないのは理解できるよ」と提言した、という内容の記述です。

 

これに関しては、以下のようなFace to Faceで聞き取った知床への関心の強さを知れば、違和感を感じざるを得ません。マッカラ-博士ご本人からはオオカミ再導入に積極的な意見しか出てこないからです。

 

 

IWMC2015 世界野生動物管理学術会議・見聞記

http://nikkokekko.cocolog-nifty.com/wolf/2015/08/2015-ee3f.html

 

IWMC2015 世界野生動物管理学術会議・見聞記

http://nikkokekko.cocolog-nifty.com/wolf/2015/08/2015-afa2.html

 

IWMC2015 世界野生動物管理学術会議・見聞記

http://nikkokekko.cocolog-nifty.com/wolf/2015/08/2015-2465.html

 

IWMC2015 世界野生動物管理学術会議・見聞記 おまけ

http://nikkokekko.cocolog-nifty.com/wolf/2015/08/2015-d4ee.html

 

IWMC2015 世界野生動物管理学術会議・見聞記 おまけ

http://nikkokekko.cocolog-nifty.com/wolf/2015/08/2015-4809.html

 

 

 

マッカロー博士の提言の引用されている原典「世界自然遺産 知床とイエローストーン 野生をめぐる二つの国立公園の物語」にあたってみると、からくりがわかってきました。

42節に「知床国立公園における野生動物管理 5.知床におけるオオカミ再導入の可能性」として、梶氏の引用した提言内容がほぼそのままの形でマッカロー博士の文章としてありました。

「今の日本の縦割り的な行政区分、複雑な土地所有の分布、緩衝地域の欠如、少ない人員体制、限られた公園管理の予算といった状況(山中、本書第214節)をふまえると、現時点では知床国立公園にオオカミを再導入できる段階ではない」

 

 

違うのは、(山中、本書第214節)という一文があるかないか、です。つまりマッカロー博士の提言は、すでに行われた議論の中で、日本側が主張したことを取り入れてのものだったのです。


確かにマッカロー博士は「今の知床が抱える問題に効果的に対処できるような管理体制の改善を行うことが必要である」と一歩引いて提言していますが、それがきっと改善できると期待を込めた前向きな発言えあることは、その後に続く内容が、ほとんど再導入を前提としていることでわかります。

たとえば、「大きくて、悪いオオカミ」というイメージが消えることはない、としながらも、「世論は知識や価値観の変化によって常に変化する」といい、「オオカミは自然生態系の一部であり」「オオカミを失った知床は生態系としては不完全である」から、その点が「知床におけるオオカミ再導入のもっとも大きな理由となるべき」かつ「自然で健康な機能をもつ生態系を復活させることは、国立公園を設置した社会としては当然のことである」と提言します。

 

また、「オオカミの再導入は決して容易なことではない」が、オオカミの再導入は日本社会が理想の自然を復元するという夢の重要な要素であり、「かつての生態系を取り戻すことが知床の果たすべき役割である」とまで言います。

 

このシンポジウムでマッカロー博士を初めとするアメリカ側はオオカミを再導入すべきだ、困難があっても再導入できると言い続けました。

たとえば第41節に「合同シンポジウム専門家会議コメント要約」として、アメリカ側出席者だけの発言が要約されています。そこにはマッカロー博士の発言もいくつか記録されています。博士の発言は以下のとおりです。この発言内容は梶氏の文章にもほとんど引用されていますが、全文を通して見ると、「知床国立公園にオオカミを再導入できる段階ではない」という記述によってニュアンスが変えられてしまいました。



「オオカミの再導入は以下のような点から正当性がある。そもそもオオカミを絶滅させたのはヒトである。外来種のアライグマの捕食者となってくれる。シカを直接捕食すること、および、間接的にはシカを逐うことで生息地の使い方を変えさせ、シカによる採食圧を緩和する効果が期待できる。まず、慎重な試験として導入し、うまくいけばそのまま継続できる。失敗に終わったとしても実験によって得られたデータは貴重であり、役にたつにちがいない」


「オオカミを再導入するのなら、フェンスで境界線を明確に設け、そこを超えて出たものは駆除するようにしてコントロールすればよい」


「イエローストンでオオカミ再導入に至った理由は、生態系の復元ということだけではなかった。人々の考え方が変わったということも大きい。昔は国立公園は金持ちのためにあり、肉食獣は害獣であり、取り除くべきものだった。社会経済の変化にともなってたくさんの人が国立公園に来るようになり、人々が国立公園に求めることは時代とともに変化した。肉食動物はもう死すべき敵ではなく、生態系の一員として理解された。彼らの存在は問題ではなく財産となった。また、オオカミ再導入の成功の要因としては、家畜の被害に対する補償制度が確立されたこともある。社会の要請の変化は日本でも起こり得ること。日本でのオオカミ再導入も遠からず可能かもしれない」




フェンスで境界線を設けるというアイデアは、マッカロー博士が討論の場で提案したことのようです。外に出るのが問題ならフェンスを作ればいいだろう、境界線を越えて出たら駆除すればいいじゃないか、とも言うくらい押していた案ですが、梶氏の文章では「意見の一致は見られていない」とありますから、日本側はあくまで提案を拒否したという情景が想像できます。

失敗したっていいじゃないか、そのデータは役に立つんだよ、とまで言う人が最終提言では「再導入できる段階ではない」という文言を入れざるをえないほど、日本側の抵抗が激しかったということも想像できます。

 

しかし、日本側ができないと突っぱね続けた理由をよくよく検討すると、なんだか情けない気持ちになります。

2005年のシンポジウムの記録から見える日本側の「できない理由」は

 

世界遺産 知床とイエローストーン⑤知床にオオカミ再導入ができない理由

https://blogs.yahoo.co.jp/pondwolf39/33901873.html

 

 

① とにかく予算がない、人がいない

② 組織が一元化されていない バラバラにそれぞれの思惑で動く

③ 環境省上席担当者は1~2年で交代し、政策の継続性がない

④ どこがイニシアチブを持っているかわからない

⑤ 人々のオオカミに対する意識は100年の間に悪化している

⑥ 畜産業の反対が「あるにちがいない」

⑦ 多すぎるシカが減らせるかどうかわからない

⑧ 環境改変によって、環境収容力が増加しているかもしれない

⑨ 野生動物による被害補償制度は制度的概念さえない

(⑩法律が整備されていない)

 

というほとんどが行政上の「できない理由」であり、日本の自然を考えた上での「できない理由」ではありません。

 

梶氏は、「捕食者再導入をめぐる議論」で、2005年の知床でのマッカロー博士の提言を切り取り、そこにシンポジウムでの日本側の上記のような主張を、あたかもマッカロー博士の提言のように忍び込ませて「現時点ではできない」のだと印象づけています。

 

 

将来「社会がオオカミを受け入れる時代の到来を待つ」という梶氏の考えは、彼の行動に反映しているのでしょうか。誤った情報を流し、「社会がオオカミ再導入を受け入れる時代の到来」を阻んでいるとしか思えません。将来のために生態学者こそが、正確な情報を社会に発信すべきだと思いますが、梶氏は生態学者ではないのでしょうか。


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