人間とクマとオオカミの狩猟効果:イエローストーンの現時点での総括②
マクナルティは、後半部分でオオカミ以外の捕食者の影響について詳述しています。
●競合捕食者クマとクーガーと狩猟の影響
北部エルク群の減少に貢献したオオカミ以外の要因の理解は進んでいる。その筆頭は他の捕食者、特に人間である。
オオカミ、クーガー、クマは年齢を選別して捕食する傾向があるのに対し、北部イエローストーンでシーズン後期の猟でハンターが捕獲したのは主に最も繁殖力のある成獣メスだったが、エルクの若い成獣メスを狙った狩猟は、エルクの頭数を減少させることはないようである。
これは1976~1988年に肉食獣の影響がほとんどない状態でハンターが角なしエルクを大量に狩ったときの北部群が大幅に増えたという事実が証明している。
ハンターが捕獲したエルクには、子エルクがほとんど含まれていなかった、若い成獣メスがいなくなった分は残った子エルクが相殺してしまったのだ。
子エルクは自然調節(ナチュラルレギュレーション)時代の10~20年の間は無条件に保護されていた。
1980年代後半にグリズリーベアが個体数を回復し、子エルクの捕食を増やしてきた。(French& French1990)クーガーも増加しオオカミが再導入されて捕食圧力をさらに上げた。
かつて捕食者が少なかったイエローストーン国立公園北部は、2000年代前半には子エルクを捕食する記録的な数のオオカミ、クーガー、グリズリーベアでいっぱいだったのだ。
ハンターは冬の狩猟で主に若いメスのエルクを相当な頭数捕獲し続けた。1995~2002年の冬季の捕獲ではエルクの総数で年間940頭から2465頭を駆除した。
1997年には、冬が厳しかったため、多くのエルクがハンターの捕獲にさらされる公園北部に押しやられた。結果として、1976年以来最も多くのエルクが冬季の狩猟期間中に捕獲されることになった(2465頭)。秋シーズンのエルク捕獲に加えて、1996~97年冬のハンターによるエルク捕獲の総数は、自然調節時代以来二番目に高い頭数(3320頭)を記録した。冬季のエルクの捕殺頭数の記録は、仮に彼らがハンターを避けられたとしても、冬の飢餓で死んでいただろうということを推測させる。
継続的な年間調査の期間に観察されたエルクの頭数減少により、モンタナ州は2005年シーズンの初めに冬季の狩猟許可を200頭以下に減らし、2009年からは無期限で停止した。秋シーズンの狩猟は継続したけれども、2010年以来、角なしのエルク猟は年間平均50頭以下、あるいは推定頭数の2%以下になった。(Loveless2015 )
●捕食者の多様性が急速な減少につながった
オオカミ再導入後の10年は、エルク北部群にとっては、オオカミ、クーガー、クマがかなり多かったマーケットハンティングの時代(1872~1882)以来経験したことのないレベル、パターンの捕食が伴ったのだろう。1923~1968年の間は「捕食」は多かったが主に人間によるものだった。(Houston1982)ハンターに捕獲されたエルクの年齢は肉食獣に捕食されたエルクのように子エルクに偏ってはいなかった。(Greer&Howe1964)
対照的に1995~2005年の期間は、肉食獣が子エルクを捕食し、人間のハンターが若い成熟したメスを捕獲するという組み合わせになった。
(下記のグラフの3枚目(C)をごらんください。棒グラフの右側グレーがオオカミ、左側青が狩猟によるエルクの年齢分布です)
子エルクの補充が減ることでメスの年齢分布が高くなり、弱い年齢層が増えたとしたら、オオカミが年取ったメスを捕食することにもまた役割があったのかもしれない。オオカミ再導入後エルクが減ったのはすべての年齢層への強い捕食圧が、オオカミ再導入後のエルクの減少率が、捕食者が人間だけだった1923~1968年のそれよりも大きいという理由であろう。
●多様なイエローストーンの理想像と不変ではない自然
明らかなことは、北部イエローストーンの現在の生態系(たとえば少ないエルクは主に公園外で越冬し、より多いバイソンは主に公園内で越冬、人間の狩猟は少なく、複数の肉食獣による捕食は多い)は、1世紀前に管理者が初めて北部群の組織的な調査(Baily 1916)を行って以来変わらずに存在していたものではないだろうということだ。この形がいつまで続くのか、次の形はどんなものなのかは興味深い設問である。その答えは北部イエローストーンの多くの関係者が長期のモニタリングや調査をサポートし続けることによってのみ明らかになるだろう。
ということでマクナルティのレポートは終了です。イエローストーンのエルク減少がどういうからくりで生起し、何がわかっていないのか、何が議論の焦点になっているのかがよく理解できる論考でした。
ざくっと整理すると、
・自然調節時代によく理解できたことは、捕食なしではエルクの増加は止まらない
・それ以降の規制された狩猟、駆除では増えすぎたエルクは減らなかった
・ところが95年以降急減した。これが謎。
・オオカミ再導入以外に、人間の狩猟、クマ、クーガーの増加、天候(干ばつ、厳冬)があり、オオカミの影響だけを取り出すことが困難
ということが言えます。そしてオオカミの効果をどの程度と見るか、が今の課題になっているということです。
1968年以前の狩猟による緩やかな減少は、1960年代以前の狩猟意欲満々な大勢のハンターがいて、規制なしに行われていたため、またそれに対してエルクの頭数はコントロール可能なレベルだったための減少であろうと考えられます。
一方、自然調節時代に増えて以降の狩猟は、規制あり、エルクも増えすぎ状態になってしまったため、減らせなかったと推測できます。
日本に置き換えてみると、人間の狩猟・捕獲だけではシカは減らせません。狩猟を排除してもいけません。マクナルティレポートを参考にするなら日本では、人間とクマとオオカミが協同してやっていけばシカが減り、バランスがとれていくと考えるべきでしょう。
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