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2020年6月29日 (月)

オオカミのエルク削減効果:イエローストーンの現時点での総括①

 イエローストーン国立公園がオオカミ再導入から20年の総括をレポートにした

 「Yellowstone Science 24-1 Celebrating 20 Years of Wolves」

https://www.nps.gov/yell/learn/yellowstone-science-24-1-celebrating-20-years-of-wolves.htm

 はオオカミと有蹄類の関係に関するデータの宝庫です。

 

その論文集のうち、

The Challenge of Understanding Northern Yellowstone Elk Dynamics after Wolf Reintroduction

の内容をかいつまんでご紹介します。

 

メインの筆者はダニエル・マクナルティです。彼はどうやら次のスター研究者と目されているらしく、2018年のウルフシンポでも注目を集めていました。

 

 ●最初のテーマはエルクの増減の歴史です。

 

「北部イエローストーンのエルクの群れは7つあり、夏の間、公園の高標高の草地で食事をするのは最も大きな群れである。」

これは別の資料からのエルクの移動地図です。茶色のついたエリアが越冬地、矢印は夏季に移動するルートです。公園内は高標高、外は低標高の放牧地が広がっています。

Photo_20200629135401   

(ここでは名前のついた群れは8つあるようです。マクナルティ―とは調査時期が違うのかもしれません)

 

「北部イエローストーンの群れ(北部群)は、低地の放牧地(公園外)からイエローストーン川とその支流が流れる公園とモンタナ州の境界に沿って広がる低木草原に分布し、公園内で越冬してきた。北部群の規模は変動し、人々の関心は減り過ぎを懸念したり増えすぎを心配したりと行きつ戻りつした。北部群の適切な規模ははっきり把握できていなかったが、人々のこうした懸念は、マーケットハンティングと密猟のためにエルクの個体数が減少した19世紀後半に始まった。(ヒューストン、1982)

オオカミとクーガーを根絶した20世紀初頭の野生動物保護論者の政策はエルクの個体数を増加させ、エルクの個体数が多すぎるという関心を呼んだ。

そこで公園の管理者とハンターは、1920年から1968年まで何万頭ものエルクを撃ち、罠にかけ、移動させたが、それが今度はエルクが少なすぎるという非難に振り子を戻した。

1969年、公園は自然調節(レオポルド他、1963)と呼ばれる生態学的マネジメント政策を実行し、エルクの個体数はその時々の環境条件により変動することになった。

公園の外のモンタナ州ではハンティングによりエルクを頭数管理しようとした。干ばつや山火事、1988年から89年の厳しい冬の気候を除けば、1968年から1994年までの間の条件はエルクの生存、繁殖には有利であり、頭数は急増した。(図1)今度は、多すぎるエルクが冬季に植生を破壊しているという批判が起きた。」

 

 

●エルク減少へのオオカミの効果

 

論文の中段でマクナルティは、オオカミのエルク減少への効果の有無について論じています。

要約すると

・オオカミの効果はまだはっきりしていない

・理由はイエローストーンの実験が再現できないからである

・実験の代わりに長期の観察がその答えを出してくれる

ここまでの要約だけを読めば、「オオカミは効果がない」と勘違いしそうですが、マクナルティはこうも言っています。

・オオカミがエルクの減少に影響を及ぼしたことに疑問の余地はない あとは効果の大きさである

・観察の結果によればオオカミの子エルクの捕食、選択的捕食が重要

・他の肉食獣も同じであり、同時期に増えたことが大きな影響を与えている

オオカミ再導入後に、エルクの頭数が急減したことをもって、「オオカミの影響がすべて」ということにはならない、他の要因も考えるべき、というわけです。

より詳細に見ていくと

●効果ははっきりしていない

20年におよぶ連邦、州、学界の研究者による調査にもかかわらず、北部の群れの動態を動かすオオカミの役割についてはいまだ明らかになっていない。

明らかになっていない大きな理由は、オオカミ再導入が制御できず、再現もできない実験だったことである。政治的、財政的制限はさておき、同様の環境、管理条件下でイエローストーンのエルクの群れに匹敵するものはないため、そのような実験は不可能なのである。

●他の要因も多かった

また、オオカミの他にもたくさんの要因がエルクの個体数成長に影響している(例えば、夏季の降水量、冬の厳しさ、人間を含む他の捕食者など)そうした要因には不変のものはなく、それどころか、オオカミ再導入後の数年間で非常に変化した。これらの管理できず、再現もできない条件下では、原因と結果に関して確度の高い結論を得ることは難しい。(おそらくは不可能)

●代わりに長期の観察

実験の代わりに、科学者がエルクの最近の減少の原因を解明するただ一つの道具は、長期間の観察である。北部イエローストーン生態系のよい所は、ほとんどの他の生態系よりも長く、集中的にモニタリングされてきたことである。

 

●オオカミの効果は確かにある

北部エルク群のデータは不確実であるにもかかわらず、近年のエルク減少にオオカミが貢献していることに疑問はほとんどない。疑いがあるとすれば、その貢献の大きさについてである。

減少のどのくらいがオオカミによるものなのか?

基本的なオオカミの生態学はエルクの動態におだやかな影響があることを示している。オオカミは、成功率は低いけれどもいつも広い範囲の獲物を狩るハンターである。その戦略は、たやすい標的を見つけることである。体が小さい、老齢の、健康でない、あるいは危険な環境にあるなどの理由で殺しやすい獲物動物である。こうした簡単な獲物は稀であり、目立たないことが多い。オオカミは絶えず獲物を得られそうな群れに目を配り、見込みのありそうな犠牲者をテストしながら標的を見つけている。

●オオカミの特徴は選択的捕食

こうしたオオカミの選択的な狩猟行動は、彼らが捕獲する獲物の年齢構成にも現れる。おおまかにいえば、北部イエローストーンでオオカミに捕獲されるエルクの半数は子どもであり、オオカミ再導入以来ほとんどそのパターンに変化はない。(Smithほか2004Wrightほか2006Metzほか2012

●子エルクを捕食するのはオオカミだけではない

選択的なオオカミの捕食は、北部イエローストーンのエルクの群れにとっては重要である。子エルクの捕食がエルクの減少に大きく貢献したようである。

オオカミが殺した獲物の年齢構成の長期データは、子エルクがオオカミによく捕食される時期を、特に子エルクがまだ小さい夏季(62%)初冬(48%)であると示している。(Metzほか2012

しかし19871990年にはグリズリーやブラックベアーが子エルクを捕獲する割合も跳ね上がっている。グレーターイエローストーン生態系で19822007年期間にグリズリーの頭数が増加したことが大きな理由である。(Kamathほか2015

同様のことはクーガーにも当てはまる。クーガーに捕食されるエルクの構成は子エルクが優位を占める。(Ruthほか、近刊)

他にも混乱させる要因があり、オオカミの効果に関する合意を妨げている。

 

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