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2023年3月30日 (木)

「再導入オオカミに狂犬病が出たらどうやって管理する?」

狂犬病にかんする話題は、オオカミ再導入に対する反対意見として時々現れます。

確かに狂犬病は発症したら死を免れない怖い病気です。しかしこれを反対の論拠として持ち出される方は、狂犬病の何たるかをまったく知らず、オオカミとだけ結び付けられたイメージをお持ちのようです。

狂犬病はオオカミだけが持っている病気、と勘違いしていませんか。

 

狂犬病はすべての哺乳類が感染します。

そして感染動物に咬まれたときにだけヒトに感染します。

 

つまりヒトに感染させる危険性が最も高い動物は、身近にいて接触する機会が多いイヌ、ネコ、などのペット類です。

アメリカでは家に侵入する吸血コウモリによると考えられる発症も多く見られます。寝室にこっそりと入り込み、本人がわからないうちに首筋を噛んでいたりするようです。

 

狂犬病に関するあれこれを調べれば、オオカミの狂犬病による脅威がありそうもないことがわかります。

 

「狂犬病再侵入 日本国内における感染と発症のシミュレーション」(神山恒夫 地人書館 2008

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によれば

狂犬病は世界中で年間数万人が感染して死亡しています。その病気の特徴は

・すべての恒温動物が感染する。ヒトへの感染源となる可能性があるのはほぼ哺乳類に限られる。(コウモリも哺乳類)

・ヒトの狂犬病の感染源としては、必ず感染した動物が介在している

・ほとんどの場合、感染動物に咬まれることで感染する。感染動物の唾液に大量に含まれているウイルスが咬み傷から侵入するからである。

・ウイルスが無傷の皮膚から侵入することはない。

・したがって感染源となる動物は飼育されているペットなどが多く、イヌ、ネコ、その他のペットによるものが世界中の狂犬病の85~90%を占めている。

・感染源となった動物は、イヌ(飼育下から放れた放浪犬も含む)、ネコ、フェレットなどの肉食系が多く、リス、ハムスター、ウサギなども少ないながら可能性がある。前述のようにアメリカでは吸血コウモリも家の中に侵入し、感染させている。

 

狂犬病を感染源によって分類すると

・ペットや放浪犬などによる「都市型狂犬病」

・野生動物が感染源になる「森林型狂犬病」

に分けられます。

 

【都市型狂犬病】

都市型狂犬病の危険は、第一に家の中で飼育しているイヌやネコが感染すること、第二に感染した放浪犬、放浪猫などを捕えようとする、あるいはエサを与えるといった危険な行為をすること、です。

日本では1957年の発生(猫)を最後に、現在に至るまで発生はなくなりました。

狂犬病清浄国であっても数年前に感染者が出たことがあります。その事例はいずれも海外で犬にエサを与えようとして咬まれた人が直後の治療をせずに、帰国したというものでした。

 

【森林型狂犬病】

森林型狂犬病は、自然界に棲む野生動物の間に感染が広がることであり、人間との接触機会が少ないため発生は少ないが、根絶はしにくいと言われています。

仮定として日本に狂犬病が侵入したとして、ヒトへの感染源の動物として考えられるのは

キツネ、タヌキ、コウモリ、アライグマ

など、人間社会の近くに生息し、生息密度の高い動物です。

人間が愛玩動物のようにエサを与えようと近づくことの多いキツネや、家屋の天井などに巣を作るアライグマなどに咬まれることが最も危険ではないでしょうか。

またコウモリに関しては食虫コウモリ、食果コウモリ、吸血コウモリの3種に狂犬病に大きく関わっていることがわかっています。野生動物の間の伝染を媒介するとともに、家屋に侵入してヒトに感染させる可能性があります。

オオカミは人里に近寄ることは少なく、人間に目撃されることもめったにありません。生息地での行動観察では人に近寄ることを避けています。生息密度も低く(およそ0.05頭/1平方キロ程度)、人間との接触は稀ですから、おとぎ話とは裏腹に、ほとんどの国で野生動物行政からは人に対して危険のある動物とはみなされていません。

オオカミは狂犬病の媒介者として最も可能性の低い部類に属する野生動物であり、オオカミの再導入に関して「狂犬病の危険」を持ち出すのは的外れということがわかります。

 

【日本での発生の危険性】

日本が狂犬病清浄国であるのは、検疫による海外からの持ち込みを遮断できたことと、国内では特に犬に対するワクチン接種を徹底したことと放浪犬の駆除対策を継続したことによるものです。

狂犬病清浄国である日本に再び狂犬病が発生するとしたら、海外から感染動物が検疫を経ずにペットが輸入され、あるいは不法に持ち込まれることでウイルスが侵入する可能性が最も高く、それが国内に広がるとしたら、現在の日本国内でのワクチン接種率が低下し続けていることが大きな問題です。

森林型狂犬病の危険については、この本の著者はたとえば北海道に接岸するロシア船が船内に飼っているイヌを平気で上陸させて散歩していること、まれにはそれが放たれてしまうことなどを挙げています。

 

したがって「オオカミでなくイヌを放て」と放言する人はこうした狂犬病対策の歴史を知らないのですね。シカ対策でイヌを放し飼いにすることも、当然ある程度の割合で放浪犬を増やすことになるので狂犬病対策的にはしてはならない行為と言えます。

 

オオカミの再導入に関していえば、検疫をせずに実施されることはありえませんので、狂犬病を持ち込むことはありません。経口ワクチンなども効果を発揮することがわかっていますので事前のワクチン投与も考慮するべきでしょう。

また自然界でオオカミが感染した場合にどうなるかをアメリカで観察した事例を読むと、発症したオオカミは群れの中で他のメンバーに感染させ、その群れが全滅して終わったという結果だったそうです。それはオオカミの群れが広大な(平均2万ヘクタールほど)ナワバリを排他的に維持しているため、そのような結果になると思われます。

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