野生動物との攻防~専守防衛と敵基地攻撃
現在の環境行政のシカ対策は、半減を目指す人為的な個体数削減と農地や林地の防御の二つだけだといっていいわけですが、それを「野生動物との共存」あるいは「共生」のために行っていると言います。
羽山伸一氏もそういう理解のもとに「論座」に見解を展開していました。
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オオカミ復活論入門
誰でもわかるオオカミ復活を知るためのの理論、歴史、文化、思想
http://www.mag2.com/m/0001681617.html
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オオカミ復活論入門
号外 ジビエについて再論。その2 オオカミ復活とジビエ振興は両立する
2019年7月21日
By Asakura
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号外はブログでも公開します。
田中俊徳さん(東大特任助教)の論考を元にして、ひょっとしてオオカミ復活とジビエ振興は両立するかもしれないことを考察したいと思います。
ジビエ振興の障壁は何か
https://www.shinrinbunka.com/wp-content/uploads/2017/03/50f26c530211362002514adf18b12b21.pdf
を参照しつつお読みください。
参考に私の論考も
ジビエを食べればシカは本当に減るのか?
http://japan-wolf.org/content/2016/01/31/ジビエを食べればシカは本当に減るのか%ef%bc%9f/
田中俊徳さんは第2章「ジビエをめぐる文化的背景」以下でジビエの障壁の具体的な内容について論じています。
まず文化的背景に関しては重要な観点を指摘しています。ヨーロッパでは狩猟が貴族によるスポーツハンティングとして残ったため、上級財(所得の増加とともに需要が増える財)であり、日本では仏教の影響から肉食を禁じた日本では下級財(所得の増加とともに需要が減る財)の性質をもっている、というのです。(河田幸視(2011)「どうしてジビエ(獣肉)利用は進みにくいのか?」(畜産の研究65))
次に流通の側面の課題として、1.食品衛生法、2.安定供給、3.価格、4.情報の非対称性を取り上げ、詳細に論じています。
食品衛生法は獣肉の取り扱いを既存の施設で行ってはならないことを決めているため、食肉処理場建設の費用、維持費がかかります。
ジビエの販売量を確保するためには安定供給が必須なのですが、シカの頭数が減るほど捕獲場所は遠くなり、捕獲運搬コストは高くなり、供給価格に反映します。シカの生息密度と捕獲運搬コストが負の相関を持つため、捕獲が進めばジビエの捕獲運搬コストが高くなり、経営そのものが難しくなるという問題も障壁です。解決策としてはシカ肉の需要を喚起し、販売価格を高くするしかないと結論します。
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オオカミ復活論入門
号外 ジビエについて再論。やっぱりジビエだけではシカは減らない その1
2019年7月17日
By Asakura
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シカの増えすぎはその被害、農林業被害に生態系被害は、さらに土砂崩れや土石流などを引き起こす危険性などリスクを孕んでいます。
ただシカを減らすだけでなく、バランスのよい自然に戻さなければなりません。
ジビエと狩猟にケチをつけるつもりはまったくありません。
しかし、その方向だけしか見ていないのでは、日本の自然全体をバランスよく護ることはできません。
田中俊徳さん(東大特任助教)がジビエ支援の論理を整理されていますので、これを元にしてもう一度ジビエだけでは日本の自然は護れないと私が考える理由を明らかにしていきます。
ジビエ振興の障壁は何か
https://www.shinrinbunka.com/wp-content/uploads/2017/03/50f26c530211362002514adf18b12b21.pdf
論者田中さんは、文中で私の書いた
ジビエを食べればシカは本当に減るのか?
http://japan-wolf.org/content/2016/01/31/ジビエを食べればシカは本当に減るのか%ef%bc%9f/
を参照され、価格や流通に関する課題についてはある程度は受け入れていただいているようです。
田中さんの「ジビエ振興の障壁は何か」の構成にしたがって彼我の考え方の違いを明らかにしていきます。
〇「1.はじめに」
ここでは獣害問題の様相とジビエ振興が必要な理由を述べていますが、今起きていることの解釈が私とは違っています。
冒頭で論者は「増えすぎたシカが、世界遺産や国立公園の森で、絶滅危惧種等を食べ、生態系のバランスを崩している」と「湯本、松田(2006)」を参照しています。
「生態系のバランスを崩している」のは、シカが絶滅危惧種等を食べていることではなく、シカがタガのはずれたように増え始めたこと自体ではないでしょうか。生態系のバランスという言い方をするとき、その言葉自体は捕食者がいる食物連鎖のピラミッドをイメージします。その食物連鎖が壊れたからバランスが崩れたのです。
現代のシカやイノシシの獣害への対策には、重厚な猪垣は作られていない。ステンレスかアルミのポールを立てて網を張る程度のものだったり、あるいはもっと簡便に、取り外しが可能なタイプだったりするが、江戸時代には、土を盛り、堀を作って何メートルもの高さにしたものが各地に作られていた。
今の感覚から見れば、攻め寄せてくる獣を防ぐためのものに見えるが、江戸時代のしし垣は、逆に「攻めるため」のものだったのではないだろうか。
しし垣
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%97%E3%81%97%E5%9E%A3
しし垣とは、害獣の進入を防ぐ目的で山と農地との間に石や土などで築いた垣のこと。西日本に多く見られ、イノシシが少ない北海道や東北地方のものは知られていない。「猪垣」「鹿垣」「猪鹿垣」などと表記する。
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現代のしし垣は、明らかに獣が攻めてくることに対する防御の壁である。
江戸時代のしし垣は、たとえば、「猪の文化史 歴史編」(新津健著)で紹介されているしし垣の例を見てみると、山梨県におけるしし垣をいくつか挙げている。村の明細帳に記録されている支出を調べると、8つのシシ垣の例が探し出せる。
そのうちの一つは、巨摩矢細工村にある。矢細工村とは富士川右岸の富士見山の麓というから、おそらく今の身延町である。その村の享保20年の明細帳に、しし垣の修繕費用に関する記録がある。
この頃のしし垣は、今と同じように、獣が攻め寄せてきたことへの防御的な対策のためのしし垣だろうか。
享保20年とは、前の記事でも触れたが、日本中の人口増加、耕地増加の時代にあたる。
その頃既に修繕のための費用が計上されていることから、少なくともその数年前の完成であろう。10数年さかのぼるとしても、間違いではなさそうだ。その頃は耕地拡大の、現代でいえば高度成長期である。
ということは、この矢細工村のしし垣は、村の住民が、耕地を谷に沿って広げるために、橋頭堡として張り巡らせ、野生動物を排除した、「攻めのしし垣」ではなかろうか。
しし垣の残る場所はどこでも山間地であり、古い記録に見る事例を見れば、そこでは食糧自給のできるほど広い耕地ではない例が多い。そんな山の中に畑を作れば、ケモノが作物を食べに来ることは言うまでもない。当たり前だ。
たとえばイエローストーン国立公園に畑を作ったら、シカは人間を避けて、畑に寄ってこないだろうか。
(写真)イエローストーン国立公園(米)ラマーバレー付近
こんなところで畑を作れば、畑は獣害を受けて当然なのである。
私は、今のところ、江戸時代のしし垣は、「江戸時代も獣害がひどく、防御が必要だった」証拠ではなく、「畑を広げていく前線に獣を防ぐバリアを張った」のだ、と解釈している。