ジビエ

2020年9月10日 (木)

千松信也さんの映画「僕は猟師になった」とジビエとオオカミ再導入

シカ問題の議論はなかなかかみ合わないところがあります。最近ニュースになったこの二つもそうです。
一つは【ジビエ】
シカの増加による農業被害に対して、ジビエで対抗する、またはせっかく捕獲したものを無駄にするのはもったいない、とジビエ産業での利用を推進する、という農業関連業界、政官界の動きはまだまだ衰えていません。自民党の議連も盛んにPRをしています。

農地荒らす鹿やイノシシ肉のジビエ コロナで消費減、需要開拓の正念場
https://mainichi.jp/articles/20200905/k00/00m/040/301000c

ニュースの内容にはたとえば
「シカやイノシシといった有害鳥獣が、農家が育てた農産物を食い荒らす被害が深刻だ。
 2018年度の有害鳥獣による農産物被害額は158億円に上る。実は近年、被害額は減少しているが、「農村への影響は統計上の被害額以上に甚大だ」(農林水産省鳥獣対策室)。国が把握できない被害(申告されないケースや、栽培をやめてしまったケースなど)が大きいためだ。
 有害鳥獣による被害は、高齢化している農村に深刻な影響を及ぼしており、このままでは全国で離農や廃村が相次ぐことになる。」
という背景として示されます。

もう一つはまた京都の千松信也さんが出版した本と同名の映画「僕は猟師になった」

「命を無駄にせずいただく」。残酷より憧憬の声が寄せられた猟師、千松信也さんの生き方とは
https://news.yahoo.co.jp/byline/mizukamikenji/20200906-00196902/


猟師の千松信也氏が問う、この時代に狩猟採集生活が持つ意味とは
https://news.yahoo.co.jp/articles/c21bba695bce340491d29018090aed8562deb330?page=3

著者本人に密着して猟師の日常を撮影された映画が完成し、映画製作者たちは
「命を無駄にせずいただく」
「森や自然ときちんと責任をもって関わる」
という千松さんの生き方に感銘を受けています。製作者が満足するいい映画になったのでしょう。

千松さんは、「1シーズン、イノシシやシカを10頭くらい獲る。自分と家族と友人らが食べる分しか、獲らないと決めている。」
というように、自分のできる範囲で、食生活を自分の力で維持しようとしているという姿勢です。だから彼とシカやイノシシの個体数削減の話をからめてしまうのは間違いかもしれません。まったく別の視点で見るべきなのですが、野生鳥獣問題があるので、どうしてもそういう目で見てしまいますし、映画評なども多少そのようなことに触れざるを得ない、というところだと思います。


彼のような方が少しいてもシカ問題は解決しません。彼が10万人いればちがうかもしれませんし、70年以上前はそのくらいいたのかもしれません。こういう証言もありますから。

「奈良のシカ 夢中で食べた」 戦後の食糧難 元小学校教諭の後悔
https://mainichi.jp/articles/20200829/k00/00m/040/180000c


こうした違う視点のコンテンツをどのようにポジショニングすれば理解しやすいのか、ちょっとした図を作ってみました。

二軸のマトリックスです。縦の軸は、
社会的課題(シカ問題)⇔個人的・文化的課題(狩猟・食文化)
横軸は
生態系への影響⇔農業への影響
です。
こうして位置づけてみると、ジビエとオオカミ再導入はまったく別のポジションにあるのがわかります。

ニュースを見るときの参考になれば。
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2019年7月21日 (日)

ジビエについて再論。その2 オオカミ復活とジビエ振興は両立する?

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オオカミ復活論入門

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http://www.mag2.com/m/0001681617.html

 

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オオカミ復活論入門

 

号外   ジビエについて再論。その2 オオカミ復活とジビエ振興は両立する

 

2019年7月21日

                                                                                                  By Asakura

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号外はブログでも公開します。

 

田中俊徳さん(東大特任助教)の論考を元にして、ひょっとしてオオカミ復活とジビエ振興は両立するかもしれないことを考察したいと思います。

 

ジビエ振興の障壁は何か

https://www.shinrinbunka.com/wp-content/uploads/2017/03/50f26c530211362002514adf18b12b21.pdf

を参照しつつお読みください。

 

参考に私の論考も

ジビエを食べればシカは本当に減るのか?

http://japan-wolf.org/content/2016/01/31/ジビエを食べればシカは本当に減るのか%ef%bc%9f/

 

田中俊徳さんは第2章「ジビエをめぐる文化的背景」以下でジビエの障壁の具体的な内容について論じています。

まず文化的背景に関しては重要な観点を指摘しています。ヨーロッパでは狩猟が貴族によるスポーツハンティングとして残ったため、上級財(所得の増加とともに需要が増える財)であり、日本では仏教の影響から肉食を禁じた日本では下級財(所得の増加とともに需要が減る財)の性質をもっている、というのです。(河田幸視(2011)「どうしてジビエ(獣肉)利用は進みにくいのか?」(畜産の研究65))

 

次に流通の側面の課題として、1.食品衛生法、2.安定供給、3.価格、4.情報の非対称性を取り上げ、詳細に論じています。

食品衛生法は獣肉の取り扱いを既存の施設で行ってはならないことを決めているため、食肉処理場建設の費用、維持費がかかります。

ジビエの販売量を確保するためには安定供給が必須なのですが、シカの頭数が減るほど捕獲場所は遠くなり、捕獲運搬コストは高くなり、供給価格に反映します。シカの生息密度と捕獲運搬コストが負の相関を持つため、捕獲が進めばジビエの捕獲運搬コストが高くなり、経営そのものが難しくなるという問題も障壁です。解決策としてはシカ肉の需要を喚起し、販売価格を高くするしかないと結論します。

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2019年7月17日 (水)

ジビエについて再論。やっぱりジビエだけではシカは減らない その1

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号外 ジビエについて再論。やっぱりジビエだけではシカは減らない その1

2019年7月17日
By Asakura
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シカの増えすぎはその被害、農林業被害に生態系被害は、さらに土砂崩れや土石流などを引き起こす危険性などリスクを孕んでいます。
ただシカを減らすだけでなく、バランスのよい自然に戻さなければなりません。
ジビエと狩猟にケチをつけるつもりはまったくありません。
しかし、その方向だけしか見ていないのでは、日本の自然全体をバランスよく護ることはできません。

 

田中俊徳さん(東大特任助教)がジビエ支援の論理を整理されていますので、これを元にしてもう一度ジビエだけでは日本の自然は護れないと私が考える理由を明らかにしていきます。

 

ジビエ振興の障壁は何か
https://www.shinrinbunka.com/wp-content/uploads/2017/03/50f26c530211362002514adf18b12b21.pdf

 

論者田中さんは、文中で私の書いた

ジビエを食べればシカは本当に減るのか?
http://japan-wolf.org/content/2016/01/31/ジビエを食べればシカは本当に減るのか%ef%bc%9f/

を参照され、価格や流通に関する課題についてはある程度は受け入れていただいているようです。
田中さんの「ジビエ振興の障壁は何か」の構成にしたがって彼我の考え方の違いを明らかにしていきます。

 

〇「1.はじめに」
ここでは獣害問題の様相とジビエ振興が必要な理由を述べていますが、今起きていることの解釈が私とは違っています。

冒頭で論者は「増えすぎたシカが、世界遺産や国立公園の森で、絶滅危惧種等を食べ、生態系のバランスを崩している」と「湯本、松田(2006)」を参照しています。
「生態系のバランスを崩している」のは、シカが絶滅危惧種等を食べていることではなく、シカがタガのはずれたように増え始めたこと自体ではないでしょうか。生態系のバランスという言い方をするとき、その言葉自体は捕食者がいる食物連鎖のピラミッドをイメージします。その食物連鎖が壊れたからバランスが崩れたのです。

 

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