捕食者の役割、オオカミの生態系での役割を探求してきたアメリカの生態学をもう少し歴史的に知ろうと思い立ち、「緑の世界仮説」と呼ばれるHSS(ヘアストン、スミス、スロボトキン)の論文を日本語に訳してみようと考えました。
この論文は私がオオカミの役割に関心を持ち始めた頃には、ほとんど知られていなかったように思います。「緑の世界仮説」「HSS」という単語だけが時折出てきましたが、その内容についてはよくわかりませんでした。論文の翻訳はいまだに世に出ていないように思います。
この論文は1960年にアメリカンネイチャーという雑誌に投稿されたもので、それ以前の30年分の研究成果、思考実験、議論を経てそのエッセンスを凝縮したような結節点にあたるものだと思います。そしてHSSの一人スミスの研究室からロバート・ペインが出てキーストーン種、栄養カスケードの概念を発見する展開がその後の30年に待っています。そこでこの論文を解説をつけて日本語で読めるようにしておくべきだと考えました。
論文の原タイトルは
Community structure,population control,and Competition
ネルソン・G・ヘアストン、フレデリック・E・スミス、andローレンス・B・スロボトキン(ミシガン大学動物学部)
◆緑の世界仮説と捕食者の役割を研究してきた人たち
論文冒頭にはこの論文の背景にあたる状況説明があります。
「自然界の動物の頭数が制限される体系は30年にわたって精力的に議論されてきた。
(ニコルソン、バーチ、アンドレワーサ、ミルネ、レイノルドソン、ハッチンソン、そして後のコールドスプリングハーバー研究所のシンポジウム、1957を参照)
このテーマの重要性を否定する生態学者はほとんどいないだろう。生息数調節の仕組みは私たちが自然を理解し、そのふるまいを予言する前から知られていたに違いないからである。このテーマの議論は通常単一の種の個体数に限定されてきたけれども、二つあるいはもっと多数の種が含まれる状況であってもその重要性は変らない。」
「コールドスプリングハーバー研究所のシンポジウム、1957」は、参照文献に掲載されています。
The use of conceptual models in population ecology Cold Spring Harber sympo
上記のようにアメリカでは「自然界の動物の頭数が制限される体系」が、1927年のチャールズ・エルトン「食物連鎖」の発見と浸透を契機として、またはそれとほぼ同時進行でその研究土壌が整ってきたのだと思われます。HSS以前の研究とはどのようなものだったのか、オオカミ研究を中心にその進展をたどってみます。